【KAC20245】Mutual Hands

武江成緒

はなさない者 → はなさない手




 はなさないで。


 君はそう泣きさけぶ。






 おかしなこと。

 だって、この手をにぎっているのは君の手のほうなのに。


 ぜったいに離さないと、なにがあっても離さないと、この手を痛いほど握りしめる君の手が叫んでいる。

 この手をつかんで握りしめながら、はなさないで、と、祈るように唱えつづける。


 そのさけびを聞きながら、おかしなことに、やっと気がついた。




 地面に倒れた自分の身体と、その手にしがみついている君を、高いところから見おろしている。


 なにか獣の牙や爪に引き裂かれたかのような、

 砂とガラスを孕んで狂う嵐に切り刻まれたような、

 そんなボロボロの手をにぎりしめて、何回も、何回も、飽きることなくあきらめもせず、君は叫びをただ繰り返す。


 はなさないで、と。




 ねえ、やめようよ。

 もう無理だよ。


 そんな呼びかけが聞こえてないのか、それとも聞こえているのかどうか。

 君はひたすらに、はなさないで、と、決してその手をはなさない。




 なんでだろうね。

 はなさないのは君なのに。


 この手も、地面にたおれたずたぼろの手と、いつの間にか、はなれないほどまた固くむすびついて。






 目を開けてみると、

 この手を絶対はなさないまま呼びかけ続けていた君の顔が。

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