はなさないで。鬼神との約束
蘇 陶華
第1話 大人は、知らない僕らの理由
除霊師の颯太に訳あって、取り憑いた霊 音羽は悩んでいた。霊だって悩む事がある。颯太は、高校生だ。まだ、10代の少年に、この依頼の深い愛がわかるかと悩んでいた。
「いいから、話せよ」
颯太は、音羽が何か、秘密を抱えている事に気がついていた。依頼のメールは削除してしまうし、もう一人の相棒にも、知らを切っている。
「一人で、解決できるのか?」
依頼を受けて、除霊するのに、霊が駆けつけたら、ややこしい事になる。
「話せないよ。颯太には、まだ、経験不足」
「いやいや、違いでしょ。晴と同じ位、幼少から戦ってきたんだ。十分、経験はある。なんなら、やるか?」
音羽を除霊する勢いで、凄むと、音羽は、いつもの様に、耳まで、避けた口で、チッと呟くと、逆さづりのまま、宙に消えていった。
「何だよ・・」
颯太は、音羽の様子に納得せず、同じ払い師の晴に相談する事にした。
「話さない?なんで?」
表は、高校教師の晴が読み掛けた本から、顔を上げた。
「なんか、一人で、抱えているんですよね」
「また、この間みたいに、変なテレビ局に追いかけられたりしなんだろうな」
「あぁ・・確かに」
颯太は、心配になった。他の除霊師に、襲われる心配もある。まだ、音羽に消えられると約束を守れない事になってしまう。そこで、晴と協力しあい、音羽の行動を監視する事になった。音羽は、颯太に憑いている霊である。離れて行動はできない。そして、音羽の行き先は、颯太の持つ鈴が知らせてくれていた。晴と颯太は、夜間に音羽が墓地に向かっていく事に気がついた。草木もねむる丑三つ時である。颯太と晴の追跡に気が付かぬまま、向かっていったのは、住職も寄り付かなくなった廃寺での墓地で、一番奥の行き止まりの墓地で、そっと佇む音羽にきが付いた。
「あれ?」
二人は、すぐ、異変に気がついた。ぼうっと立つ音羽の前に小さな男の子の姿を見つけたからだ。
「嘘だろう。こんな時間に」
晴は、男の子の様子にハッとした。
「男の子をよく見ろ」
晴は、颯太に言った。男の子の傍には、老婆が立っていて、悲しい顔をして、男の子を見下ろしていた。老婆は、音羽と同じ霊であった。
「これは、男の子の霊を払えという案件」
「そう思っていたのですが、音羽を見てください。珍しく老婆の霊を説得しています」
男の子は、半分、寝ぼけている様だった。音羽は、老婆の霊を説得し、男の子を自宅に戻す様に説得している。そして、その墓碑に向かい涙するのだった。
「音羽が、泣いている?」
「し!」
素っ頓狂な声に、音羽が気がついて振り向いてしまった。老婆の霊が怖い顔をして、颯太と晴に襲い掛かろうとしたが、晴の力で、押さえつけられてしまった。
「何で、ついてくるんだよ」
音羽が、少し、涙で、曇った声で言った。
「心配だからだろう」
「あの男の子の親からの依頼だろう?」
婆さんの霊を払い、夢遊病の症状を無くしてほしいと相談を受けていた。
「だけど。そう簡単ではない」
音羽は、言った。
「理由はいないけど。払う事は簡単でないんだ。悪い霊じゃない」
晴は、頷いた。
「そうだろうな。あの墓を見ればわかる。何百年も前の墓だよな」
「理由は、はなせないんです。約束だから」
音羽は言った。
「願いが叶うまで、あたしは、見守るつもりです。二人が、出会う時まで」
「そっか・・だから、颯太には、解決は無理だったな」
晴は、言った。
「いや・・・先生だって、無理でしょう。まあ。結婚できていないし」
「失礼な」
男の子は、婆さんの霊に導かれて、墓地を出て、反対側の家に入っていった。
「あの婆さん、心配で、憑いているんだな」
晴は、ため息をついた。
「恋人が、出会って一緒に添い遂げられるのは、いつ、なんだろうな。あの男の子は、あと、何年、待つんだろうな」
「男の子は、きっと、待っているよ。彼女が生まれ変わるまで。でも、その事は、男の子には、はなさないで。約束らしいから」
「はなさないでか・・・」
颯太は、ため息をついた。
「でも、僕たちには、話して欲しかったな」
男の子は、前世で、離れてしまった彼女の誕生を、気付かず、待っているのだった。
はなさないで。鬼神との約束 蘇 陶華 @sotouka
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