はなさないで!

飛鳥部あかり

はなさないで!!


小さな喫茶店で私は久々に彼に会った。


「久しぶり」

「うん。久しぶり」


彼——渡瀬結生わたせゆうはつい最近まで私と付き合っていた。

少しの言い合いで別れてしまったが、ただの友達としてはたまに会ったりする。


「コーヒーでいい?」

「うん。……でも、海里みさとはコーヒー苦手じゃなかったっけ?」

「え……」

「それでさ、初デートの時に海里が強がってブラックコーヒー飲んで泣いていたじゃん」

「うっ」

「で、俺のと交換したじゃん」

「……そ、そうだね……。でも、もう大丈夫。コーヒー好きになった」


急に思い出話をされて、気恥ずかしくなる。

しばらく無言が続く。

コーヒーを店員さんがもってきてくれて、私はコーヒーを一口飲む。

結生は小さく深呼吸をしていった。


「ね、ねえ。……俺ら、やり直さない?……また、彼氏と彼女として」

「……え」

「俺、やっぱり海里のことが好きみたい……ダメ?」


私はもう一口コーヒーを飲んで、心を落ち着かせる。


「……ごめんなさい。……私はもう結生のことはただの友達としか見れないの」

「……そうか」

「ごめんね」


空気が一気に冷めてしまった。

でも、実際そうだ。

付き合おうといったのは結生から。別れようといったのは私から。

……結生は私にとってただの友達だということに気づいたのだ。


「ねえ、海里。覚えている?」

「……ん?」

「初デートの時。……初デートは近くの海に行ったよね。俺は泳ぎたかったのに、海里はずっと砂のお城創っていてさ……。めっちゃ可愛かった」

「……ん」

「そして、その後に駅前のクレープ屋さんに行ったよね。海里が全部食べたい!って言うから俺奮発して全部買ってさ、その後全部半分こして食べたよね。……俺、その時めちゃ幸せだった」


どういうわけか結生は思い出話を始める。

私は無意識に、自分の耳をふさいでいた。


「これ以上、話さないで!!」


私は急いで結生の言葉を止めた。結生は不思議そうに首を傾げる。


「ま、また結生のこと、好きになっちゃう!!」

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はなさないで! 飛鳥部あかり @asukabe

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