第9話 風使い結斗②
そして、5日が過ぎても相変わらず竹を割れずにユウトは一人川辺に寝転がって空に浮かぶ流れ雲を見て「いいなぁ。雲はこの広い世界に風に身を任せて流れ、世界中を旅している。俺はこの山で毎日自分の足で…って鹿にも乗って。」と移動しているかぁ。」一人思いふけっていた。そして小さな鳥が目に入り、その後ろの方からはやぶさが飛んで来ている。「もっと早く飛ばないとはやぶさにやられちまうぞ!」と小鳥に向かって言ったが、その小さな鳥ははやぶさに食われてしまった。「待てよ、逃げる小鳥を食べる為に速く飛んで追いつくはやぶさ。もし速くはやぶさが飛べなかったら小鳥は逃げきれていたよな。今の修行では力を竹に繋げるために細くコントロールしそこから徐々に力を加えている。しかしその力は竹を割る程の力には達しない、それは何故か?…力を加える速さが遅いからその間に小さな穴の隙間から力が逃げているからだ!」と分かり、再び竹に力を注ぎこむ。「よし、竹に力を繋げたここから力を加えるそして速く供給をしていこう。速く、もっと速く…」そしてとうとうユウトは、竹を割る修行を突破したのだった。そしてユウトは妖精と合流し、二つに割れた竹を見せた。妖精が近くにある木に竹と同じような穴を開け、「もう一度やってみてください。」と木を差し出し、ユウトはそれも同じように割ってみせた。「お見事。お分かりいただけたと思いますが、フィルコバのこの力はまず対象物と力を繋げることが大切です。そして力が不十分な場合はさらに力を加えます。しかしそれに時間を掛けると力は分散し、思うように発揮されないので速く供給する必要があります。それを繊細にコントロールするのが、この修行の目的でした。能力のイメージ及びコントロールの修行はこれで完璧のようですね。それでは最後のステップです。」と言って落ちている木の枝を拾い「これに風の能力を加えて、岩を切ってください。」とユウトに言った。「ん?そんなこと出来るの?」とユウトが言った。「はい。今まで修行したのは能力を扱う上での基本である集中力、対象物に能力を繊細にコントロールし素早く供給する訓練でした。そしてこれは対象物に能力を付加させる訓練です。木の枝に今まで通り風の能力を供給してみてください。」と妖精はユウトに言い、ユウトは言われた通り供給をしてみた。そしたら木の枝をすぐさま折れて、地面に落ちた。そして妖精は「付加をするとこんな感じになります。」と言って別の木の枝を拾い、妖精は風の能力を木の枝に付加をさせてみせた。その木の枝は折れることはなく、風が木の枝の周りをもの凄い勢いで音を立てながら覆いつくしていた。「おぉすげぇー!」とユウトは妖精の風の能力が加えられたその木の枝を眺め、感激していた。「とまぁこんな感じです。頑張ってくださいね。」と妖精はユウトに向かってにっこりした。「では今日の修業はここまでにして、休憩にしましょうか?」と、日が沈み薄暗くなった頃、妖精はユウトに声を掛けた。ちょうど遠くの方にいい洞窟のようなものが見えたのも合ったが、何よりユウトが木の枝に全く風の能力が付加出来ずに悩んで、珍しくイライラしているように見えたからだった。「あぁそうだな。ちょっと俺も疲れていたから助かるよ。」と気の抜けたような声でユウトは答えた。洞窟に着き腰を下ろすとユウトは「なぁ俺達どのくらい町に近づいてきているのかなぁ?」と妖精に聞いた。「もうすぐで私たちが歩いてきた森を抜け丘に出ます。そしたらまた山を登り、その山を下山すれば町に出ます。」と、もう少しで今いる森を出られるようだった。「そうか、もう少しで半分。かなり、進んできたように思っていたけど。まぁ折り返し地点まで来たってことだね。」とユウトは少しほっとしたようだった。そうして本当に疲れていたようで、すっと眠りについたユウト。「丘が見えてきましたよ。」と雲一つない空の下、妖精はユウトに元気に声を掛けた。「うわぁ。ようやく森を抜けようとしているのか。」とユウトも笑顔になった。「丘に入ったらそこで一休憩しましょうか?森にあった滝の川とはまた一味違った、綺麗な川が流れていています。私は食料になりそうなものを探してきますので、ユウトさんは休憩してください。」と妖精は言い「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて川でひと泳ぎして気分転換と行こうか。」とユウトは最後の修行を一時休憩して、頭の中をスッキリさせることにした。丘に入ってすぐ脇の方に流れている川で、ユウトたちは早速水遊びをしていた。「おい、お前も入るのか!」鹿が川に入って水遊びを始めたのを見て、ユウトは呆れながらも自然と笑みがこぼれた。そして鹿はユウトに向かって走り、近づいてきた。「おいおい、俺と遊びたいのか?」と言って鹿に水を掛けた。鹿は喜び、もっと、もっと、と伝えるように飛び跳ねた。その姿はとても可愛く見えた。そしてはしゃぎ過ぎている鹿は、川から少し突起して顔を出した岩に止まって羽休めしている小鳥を見つけた。「お前も遊ぶか?」と水を掛けようとしたが、小鳥は飛んで水を避け、再び岩に止まった。何度も鹿は水を掛けてやるぞと何度も水を小鳥に飛ばすが、避けられてしまった。その光景を微笑ましく見ていたユウトは、ふと小鳥が止まっている岩をじっと見つめた。やがてユウトは、上流から流れてきた木の枝を一本手に取り、風の能力を付加し始め「やっぱりそうか!」と何か閃いたようだった。そして、川から上がりまた落ちている木の枝を拾い両手で風を付加させることに成功し、近くの大きめな岩に向かって振り下ろすと、岩を切ることが出来たがまだ完璧ではなかったようで同時に枝も折れてしまった。「コツはなんとなく分かったけど、妖精は片手でやっていたな。」と思い、片手で風を送り込もうとしたが上手くいかなかった。やがて、食料となりそうなものを探しに行っていた妖精が帰って来た。「向こうの方に、桃の木がありましたよ。もう少し休憩したらそこに向かいましょう。あら?岩を切ることに成功したようですね。」と妖精はユウトの前に現れた。「ありがとう。コツは掴んだけど、この通り、枝も切る時の衝撃に耐えきれず折れてしまった。それに両手じゃないと上手く出来ない。」と言い、妖精に両手で枝に風の力を入れて見せた。「もうここまで出来るようになったのですね!素晴らしいです。」と言ってキラキラした眼差しでユウトを見つめた。「いや、偶然の発見でした。鹿と遊んでいたら川の中にあるあの岩に小鳥が止まり、大きい岩だなぁって見ていたら、川の水の流れが岩に遮られ二つに分かれ岩を過ぎたらまた合流する。それを見て閃いたことそれは、俺の風も一点から二つに分かれさせて左右から風を送り込ませて包み込むようにすればいいんじゃないかなぁって。」と妖精に話した。「なるほど。その通りです!この付加の修行では能力の流れを操ることがポイントです。つまり能力で型を描く事です。一筆書きのように一つの風で包み込むのには技術と経験が必要ですが、あなたのように二つの風を繋ぐような形で行えば一つの風よりは簡単に出来ます。」と妖精はユウトに教えた。「流れを操り、型を作るのか。」と、ユウトは繰り返しもう一度両手で試しそのイメージを脳に刻み込んだ。しばらく経ち、ユウトは自分の足で丘の道を歩きながら考えることにした。やがてユウトたちは、妖精が見つけた桃の木に辿り着き、ユウトたちは桃を食べて少し休憩していた。「なぁどうして俺が付加した枝は岩を切る時に折れてしまうのかな?」とユウトは妖精に聞いた。「そうですね。これは大まかなコツを掴んだとしても、少し難しいと思うのでユウトさんの頭の中を整理しましょうか。」と妖精はユウトに落ちている木の枝を拾いこう説明してくれた。「もしこの枝を、このまま岩や地面といた固いものに叩きつけると、このようにすぐ折れてしまいます。これはユウトさんが能力を付加したのと何にも変わりません。では、私とユウトさんの能力の付加のどこに違いがあるのでしょうか?違う言い方に言い直しましょう。どうすれば、ただの枝を風の能力を加えただけの違いにより、枝を折らずに岩を切ることが出来るか?」ユウトは馬鹿にしているのかと感じこう答えた。「そんなの枝を岩に触れさせないで切るしかないだろ!」と困ったふうに答えた。「その通りです。枝を岩には触れさせてはいけないのです。」と妖精は真面目な顔でユウトに言った。「え?枝で岩を切る修行なのに、岩にはぶつけないってどういうこと?頭の中を整理するって言っていたよね?逆に混乱しちゃったよ。」と、ユウトは困り、そして笑い始めた。妖精は「まだ分からないようですね。では今から、お互いに枝に能力を付加させて見比べるとしますか?」といい、妖精とユウトは木の枝を拾いそれぞれ能力を付加させた。「どうですか?違いが分かりますか?」と、妖精はユウトに聞き「言われてみれば確かにあなたの方は枝の形をしているように見えて、枝と風の能力の間に隙間を作っている。俺の方は、枝のちょっとした隙間に能力が入り組み枝の隙間を埋めるように丁寧になぞっている。それによって風の能力が加わったことによって岩は切れるが、枝は衝撃に耐えることが出来ず、折れてしまっていたっていうことなのか?」と、ユウトは妖精に見た感想をそのまま伝え「その通りです。この修行は対象物に付加を与えること、それに加え対象物との間には空洞を設け対象物自身を守ることを意識しています。それは供給するよりもさらに繊細な技術を要します。型を作るということはそうゆうことです。頑張ってくださいね。」と、妖精は言った。「ありがとう。俺、頑張るよ。よーし、休憩は終わりにして、丘を一気に抜けるぞー。」と、ユウトは走り始めた。そして数日が過ぎ丘をやっと抜け、山に入ろうとしていた。その頃のユウトは、対象物に風の力を付加させることに成功していた。「両手を使えば能力付加が出来るようになりましたね。これで風の力の修行は完了です。お疲れ様でした。」と妖精はユウトに修行が完了したことを告げた。「ありがとうございます。これで一人前ってことですかね?」とユウトは妖精に聞き「はい。」と妖精は言った。「この山道では片手での能力付加が出来るようになってみせます。それで俺は二人前になっちゃいます。」と笑いながら言った。「その意気込み素敵です。実はフィルコバ開花者で一人前になったものにだけ、習得が可能な奥義がございます。それをユウトさんには山を越えるまでの間に習得してもらおうと考えていました。どうですか?」とユウトに妖精は聞き「奥義なんてものも合ったのですね?!はい!もちろん、お願いします!」とユウトは元気に答え、妖精は微笑んだ。そしてユウトたちは山の入り口に入り、新たな奥義習得の修行が始まったのであった。
アイラの宝もの 風詩蝶 @Fushicho
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