第8話 風使い結斗①

妖精の村に籠って3ヵ月が過ぎていた。

ユウトは日々蝶々が舞い踊る中、瞑想の修行に励んでいた。「ユウトさん、体がふらふらしていますよ。」瞑想から3時間が経過してきた頃に妖精はそう言った。「ちくしょう、またダメかぁ」と言って、薄い円盤の石から飛び降り「よし気分転換に散歩だぁ」と妖精に言ってその修行場所から立ち去った。「いいえ、ユウトさん。あなたは成長が早い。きっともうすぐで、集中力の修行は完了でございます。」と妖精はユウトの背中に向かって囁いた。ユウトは先代の石碑の前に来ていた。「なぁ先代様。俺、どうすれば集中力の修行を達成できるかな?」と石碑に向かって語り掛けていた。ユウトは珍しくも悩んでいたのだった。そして石碑の前で両手を合わせて目を瞑り、黙とうをした。そうしていると、初めて会う雪のように白い妖精が、ユウトの前に現れた。「先代様のお参りですか?」とユウトに話しかけた。「はい。あなたも?」とユウトは聞いた。「先代様にはずいぶんと励まされましたから。」とその妖精は答えた。「そうだったのですね。先代様はどんな方でしたか?」とユウトは聞いてみた。「この方は自由でありながら、ここぞという時には一つのことに打ち込める方でした。最近あなた様が集中力の修行をされている場所で、同じように修行をしていたある日のことです。その日は私が妖精として初めて飛行の練習を親に教わっていた日でした。全く飛ぶことが出来ず、私は悔しくて泣いていました。そして悩みこの村を歩いていた時に、この方の修行している所に出くわしたのです。当時この方も上手く集中が長時間保てずにもがいていましたが、彼は自分に言い聞かせるようにこう言っておられました。「無の中に風を見、風の中に深すなれば己は有す、己を流に放ち無を喜しよ」その言葉を聞いた時、最初は理解できませんでした。しかし私は日々の飛行の練習で挫折をしては先代様の修行を見て励まされ、日に日にその言葉の意味が理解できた気がしました。そしてこの広い綺麗な空を飛ぶことが出来るようになったのです。」と、この妖精は先代との出会い話をしてくれた。ユウトは先代のその言葉を呟き何か閃いたようだった。そして「ありがとう、お陰で修行のコツが分かった気がするよ。」と言って修行場所に戻っていった。その姿を見たその妖精は先代の石碑に向かって「あなたを受け継ぐあの青年がこの山にきっと新たな風を吹かせ、また綺麗な花の山にしてくれるでしょう。」と語り掛けた。その時に石碑はその言葉に応えるかのように日光に照らされ、少し輝いているように見えた。そして修行に戻ったユウトはとうとう5時間という瞑想の修行を完了した。それを見ていた妖精は「凄いじゃないですか!ユウトさん!」と空を飛び回りユウトの5時間瞑想達成を喜んだ。続けて「お腹空いているでしょう?夕食の準備は出来ています。」と、ユウトは「…確かに!全く空腹感なかったけど腹ペコ!!」と周囲に響き渡る程の大声で言った。山盛りに用意された果物にかぶりつくユウトに妖精は「明日から下山して目的地の一番近い町に向かいましょう。そして新たな修行してもらいます。それでいいですか?」と確認をした。「うん。それでいいと俺も思う。」と答えた。「瞑想は毎日5時間引き続き集中力の訓練として町に着くまでの間にしてもらいます。そして次の修行はこれです。」と竹の筒をユウトに渡した。「竹の筒?これがどうした?」と首をかしげ、ゆっくり妖精を見た。「ここにある隙間に風の能力で風を入れて割ってください。つまり風の力を決まった所に注ぐ供給訓練です。」と説明をした。「何だ、そうゆうことか。思ったより簡単そう。」と言い、早速試そうとしたユウト。「そういえば、どうやって風の力使うの?」と笑いながら言った。妖精は「まず瞑想の時のように集中してください。集中したらゆっくり目を開け開花した目が能力を集中力に伴い風の力を繊細にコントロール出来ます。風の力は開花したその者の目に宿っており、頭の中でイメージしたように風を操れます。またその力は集中力に比例します。」と教えてもらい、早速試しに竹の小さな穴に向かって風の力を送り込んでみた。「こんな感じか?手を竹に向かってかざし、ちゃんと風の力は竹の中に送り込まれているか?」と聞き「はい、しっかりと風の力は竹の中に送り込まれています、しかしまだ力が弱いです。」と妖精は答え、そしてユウトが力を強めた途端、竹の筒は遠くに吹き飛んだ。「分かりましたか?力を強めると小さい穴より風の通る幅は大きくなり、竹の筒は吹き飛んでしまうのです。簡単なように見えますが、実はこの修行はとてもイメージを繊細にし、そしてそれには集中力を必要とします。大変難しい修行ですよ。」とにっこりして妖精は話した。「なるほど。確かに難しいのは分かった。」といいながらもう一度挑戦したが、やっぱり竹の筒は悲しいことに遠くの方に吹っ飛んでいった。「まぁ今日はもう明日の下山に備え休むとしましょうか?」と妖精はユウトに言い「それもそうだな。今日はもう疲れて集中力も維持できそうにないわぁ。」と答え、ユウトは綺麗な花のベッドの上で気持ちよさそうに眠りについた。翌朝、ユウトは起きたあと瞑想を5時間行い、妖精と鹿は風に揺られる花々の香り漂う花畑を散歩していた。「おまたせ。準備できたから早速出発しよう。」とユウトは声をかけた。「そうですか、では出発する前にここの妖精たちがこれから長旅になる私たちのことを心配してくれて、フルーツの盛り合わせをくれました。あそこに置いてあります。取ってきて下さい。」といい、フルーツが沢山入ったバスケットをもらった。そしてユウトたちは目的地である町へと向かったのである。ユウトは下山での道中、やはりイメージと風のコントロールの修行のことを考えていた。「どうすれば、風を細く且つ竹を割れるくらいの力を入れることが出来る?」と自問自答していた。そして休憩の時や、いいアイデアが思い浮かんでは竹に風の力を送り込んで試していた。そんな日々を繰り返し二週間が過ぎた頃、ユウトの修行が少し前に進んだ。「よし、何とか吹き飛ばずに竹の中に力を注ぎ込めているぞ!もう少し、あともう少し。」とユウトが何かコツを掴んだようだった。しかし、竹を割るまでには及ばなかった。妖精は「ユウトさんコツを掴んできましたね。今どのようなイメージをして力を注ぎこみましたか?」とユウトに聞いた。「今までの俺は、割るために風の力を強めることをイメージし、それを頑張って竹の穴のように細く送り込むことをイメージしていたけど、今回はまず風の力を最初に竹に送り込んでその後に力を加えるようにイメージしました。」とユウトは答えた。「凄いじゃないですか!そうですね、まずは風を目的物に力を繋げる必要があります。それをユウトさん自身で見つけました。」と妖精は心の底からユウトの成長を喜んだ。そして嬉しくなった妖精は「しかし、せっかく力を加えているのに穴の隙間から力が逃げてしまっています。もう一つ大切な要素が必要です。ここからはユウトさん自身で考えてみてください。」とユウトに考え方はこれで正しいこと、そしてもう一つの要素がこの修行の鍵であることを伝えた。妖精の助言を聞いたユウトは、竹の筒を見つめ「隙間から力を逃がさない方法かぁ。」と呟いた。

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