第7話 フィルコバ
夕日で周りの景色が綺麗な橙色に染まり始めた頃、ユウトたちはようやく西の山の麓に辿り着いた。その途中で休憩に時間を費やしたのは、二回で昼食の休憩と鹿の足を思いやっての休憩だった。各休憩の際には瞑想15分、計30分を結斗は行っていた。弓道部に所属していたので、15分の瞑想は問題ないように妖精には見てとれた。「今日はもう遅いので、この辺で一夜を過ごしましょう。少し先に進んだ所に滝が見えます。その付近に空洞がありますので、そこで休めると思います。どうでしょうか?」妖精が提案する。「そうだな、今夜はそこで休みんで、明日一気にこの山を登ろう。」とユウトは答えた。「はい、ではこちらです。」と妖精が滝の方に案内してくれた。空洞は一夜を凌ぐには十分なものでユウトたちの前にも、誰かがここで休憩していたのだろうと思える焚火の焼け痕がそこには合った。今日はそこで焼き魚2つを食べ、明日に備えて早めに寝ることにした。鹿と妖精がまだユウトの傍で眠っている。ユウトは日が昇り始めたまだ薄暗い中目を覚まし、空洞から出て静かに流れる川の流れを眺めていた。その川の流れを眺めていると、川の中に流れを二つに分ける程の丸い大きな岩がユウトの目に入った。ユウトはその岩にあぐらを掻くよう座り瞑想を始めた。一時間くらいは経っただろうか?瞑想を始めた時は薄っすらしか見えなかった風景だったが、目を開けた時には朝日がはっきり見えるように照らしていた。鹿と妖精も起きていて滝つぼの直ぐそばで水を飲んでいた。ユウトも妖精たちと合流し水を飲み、早速山を登ることにした。「ユウトさん、私たちが寝ている中どこか行っていらっしゃったようですけど、どこにおられたのですか?」と妖精は聞いた。「あー瞑想の修行をしていました。」と応え、「熱心な人ですね。素晴らしいです。」と妖精はにっこりと微笑んだ。山の道中には花や果物の木は多く、蝶々や鳥も頻繁に目にすることができ、この山の道中は以前に居た森とは違っていた。そういった新鮮な気持ちが山を登るのを早く感じさせてくれた。とうとう、ユウトたちは妖精の村であろう少し開けた花畑が広がる場所に着いた。「ここが私たち妖精の花畑です。あちらにはあなた様の先代にあたる石碑があり、私たち妖精と動物たちで作りました。そして向こうの方にフィルコバが咲いている神聖な場所があります。」妖精はユウトを先導するよう前に進み案内をした。「素敵な場所ですね。先代の石碑があるのですか?!あとで見に行きたいです。」とユウトは言い「もちろんです。きっと先代様も喜んでくれますよ。」と喜んで妖精は答えた。神聖な場所の前に着き、その入り口には真っ赤な鳥居が構えていた。ユウトは真っ赤な鳥居を潜り抜け、少し見上げると綺麗な緑とかすかに注がれる日の光に目を奪われた。少しの邪気も通さないほど、優しい緑の輝きが自分を照らしていた。石の階段を上がり終えるとそこには、色とりどりに咲く花が円形に咲き並び、またその中心には立派な群青の台座が一つ、綺麗な透き通る一輪の緑色の花を護るように構えていた。その緑色の花は、一見どこにでも咲いている草花と同じであるが、言葉では言い表せないほどの存在感はあった。「あれがフィルコバでございます。」と妖精が言った。花の円の内側に足を踏み入れると、とてつもないオーラがフィルコバから解き放たれているのを肌で感じることができ、そしてオーラの流れが微かに見ることができた。「私たち妖精が毎日決まった時間、決まった量の水を与えています。そして咲く頃にフィルコバは、気を放ち悪の心を持つ者を近づけないようにします。」と妖精が教えてくれた。「なるほど、この場所だけ他とは空気が違って肌で神聖さが感じられます。」とユウトは答えた。妖精は微笑んだ。そして「さぁお手に取ってください。」と囁いた。ユウトは100年に一度咲くフィルコバを少し躊躇いながらも、ゆっくりと摘み取った。摘み取るとユウトの善の心に反応したのか、突然神聖なオーラがユウトの周りを渦が巻くようにユウトを包みこんだ。ユウトは急な異変による驚きと恐怖で身動きがとれず、妖精に「これは大丈夫なのか?」と尋ねた。「フィルコバが摘み取られたので、このオーラが摘み取った者、つまりあなた様に反応したのです。どうぞ、フィルコバを口に含んでください。」と妖精の指示に従い、ユウトはフィルコバを口に含んだ。そしてオーラがユウトを包みこみ、やがてオーラはユウトの中に溶け込むように消えた。ユウトは「フィルコバの力が体の中に宿ったのが分かる!」と妖精に言った。「はい!上手くフィルコバの属性能力は、あなた様にしっかり宿ったようです。その証拠にあなた様の瞳には開花を示す紋様が出ています。」と妖精は笑顔で言った。ユウトの瞳にはフィルコバの綺麗な緑色と共に、桜の花のような形をした紋様が現れていた。「ここからが本番ですよ。」と妖精はユウトに言い「ああ、そうだな。確かに修行をしなければ、コントロールは難しいってことが理解できた。」と答えた。そして、ユウトたちは真っ赤な鳥居を通り抜け、先代様の石碑へとお墓参りに訪れた。「先代様はどんな人だったの?」とユウトは妖精に聞いた。「そうですね…風のように自由な人でした。彼は修行の時でも自由といいますか、マイペースで3年間じっくり修行に打ち込みましたね。」と笑いながら妖精は教えてくれた。そしてユウトたちは石碑から妖精の綺麗な花畑を見て回り、そこでは鹿がてんとう虫を追いかけている姿もあり、ユウトと妖精は笑った。それからユウトたちはお昼に、妖精の育てたフルーツの盛り合わせを堪能した。「今日はここで瞑想の修行をして、明日下山といたしましょうか?」と妖精が提案してきた。「それもそうだな。ここは空気も景色も綺麗で瞑想するのには丁度いいな。」とユウトは答えた。「そうと決まれば、とっておきの場所がございます。先代様も瞑想の修行で使っていた場所へご案内します。」と妖精がまた別の場所へと案内してくれた。フィルコバが咲いていた場所の通りの裏側の方には、蝶々が沢山羽ばたいている小さな四角い花畑があり、その真ん中には一本の石の柱があった。またその上には、人間が一人座るのがやっとくらいの丸い円盤の石があり、ユウトは一目見ただけで何をするための場所かを察することが出来た。「あそこに座って先代様は瞑想をしていたのか?」と妖精に聞き、「はい、そうでございます。」と囁いた。ユウトは早速座ろうとしたが、座るのにも高さがある。その上、座る幅も狭く苦労はしたがユウトにも座ることが出来た。「確かにこれなら少しでも気を抜いたら落ちるし、いい修行場所だな。」と先代様がこの場所を利用していたことにも納得できた。「よし、決めた。瞑想の修行が終わるまではこの山に籠るぞ!それでいいか?」と妖精に尋ね、「もちろんでございます。」と力強く答えた。
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