自主企画参加作品「催眠アプリ」
XX
作者的に、催眠アプリを使ったら〇されても文句言えないと思うんよ。
催眠アプリ。
『このアプリを、優秀かつ精力旺盛な男子中学2年生のキミに送信する。このアプリを使用して、キミの優秀な精子で次世代のエリートの種を撒いて、少子化問題を解決することに貢献してくれたまえ』
こんな文面と共に、僕のスマホにこのアプリがインストールされた。
強制的に、だ。
一体どういう仕組みだろう?
バックドアがこのスマホに仕掛けられていたってことなのか?
まぁ、それはどうでもいいか。
今は。
催眠アプリ。(2回目)
僕もまあ、男なのでどういうものかは知ってる。
他人に簡単に催眠術を掛けられるアプリだ。
その手のエロ作品だと、どんな女の子も自分に強制的に惚れさせられるし、男も自分の都合のいい奴隷に出来る。
で、大体人妻や学園のアイドルを玩具にして、無責任に妊娠させて、出産させた後、その赤ちゃんの世話を他の男に押し付ける。
そういうのがあるあるだけど……
そんなものが、僕のスマホにインストールされた。
……どうしよう?
正直、ちょっとドキドキしていた。
催眠アプリには、さっき言った文面と一緒に。
使用ガイドというテキストも一緒に送付されていて。
その使い方が書いてあった。
催眠アプリの使い方……
『催眠術に掛けたい相手の住民票に記載されている住所と氏名を入力。そして送信』
これだけ。
……相手にこのスマホを見せなくて良いのか……。
それがフツーなのに。
ある意味、エロ作品に登場するヤツより使いやすいな。
標的と2人きりになる必要すらない。
だから絶対にバレないというか。
メッチャクチャ安全に使える。
無論これが、本物であるのが前提の話だけど……。
……僕には、好きな女の子がいた。
同じクラスの、モデルしてる子なんだけど。
この間なんか、雑誌で「私と貴方だけの楽園」なんて書き文字と一緒にグラビア飾ってて
目が離せなかったよ。
彼女は背が高くて、スタイルが良くて。
可愛い上、おまけに優しい。
彼女を知ってる男子は、大体彼女のことが好きで、僕もそうだ。
……僕は一応、全国中学生統一テストで、2桁の順位に入る程度には成績は良いんだけど。
あまりかっこよく無いんだよな。
チビだし。太ってるし。
だからまあ、彼女と恋仲になるなんて、それは正攻法では無理なのは分かってる。
それ以前に、彼女自身すでに彼氏がいる可能性だってあるよな。
だから色々と、無理だと思うんだ。
彼女を手に入れたいなら、このアプリを使うしかない。
それに
アプリを使うために必要な、氏名と住所だって、余裕で取ることができるんだよ。
直接調べるのは困難だけど……
彼女と仲の良い女子が、僕の幼馴染で隣に住んでるんだ。
だからまず、その幼馴染を僕の奴隷にしたら、おそらくそこから彼女の住所の情報が取れる。
そこでもし無理なら、別の女子の情報を貰えばいい。
奴隷の数を増やせば、いつかは辿り着く。
だからやろうと思えばできる。
僕の頭の中で、彼女に辿り着くためのロードマップが描かれていく。
そして僕は。
入力画面をスマホに呼び出した。
そして1カ月経った。
……結局僕は、アプリを使わなかった。
幼馴染の名前と住所を入力したとき。
我に返ったんだ。
これ、このアプリが本物なら、こいつの魂が殺されるんだよな、って気づいて。
僕の言うなりになって、僕の欲しい情報を全部抵抗なく話してしまうようになったアイツは、もはやアイツじゃない。
ただの人形だ。
そんなの、アイツが死んでしまったのと同じじゃないか、と。
そこにハッと気づいて。
送信ボタンは押せなくなった。
そして連鎖的に気づいた。
このアプリは、アプリ所有者を王様にするアプリじゃない。
孤独にするアプリなんだ。
他人の存在って言うのは、煩わしいところもあるけど。
煩わしいし、思い通りにならなくてイライラしたり、辛かったりすることもあるけど。
だからこそ、協力できたり、共感し合えたときに嬉しいんだよ。
このアプリは、そういうのを全て投げ出して、人形だけの世界に入るための片道切符なんだ。
……要らないよ。こんなの。
それが僕の出した結論で。
僕はアプリを閉じてしまった。
ついでにアプリを消去しようとも思ったんだけど。
それは何故かどうしても無理なので。
放置した。
そしてさらに1カ月経ったとき。
「アプリがスマホから消えた……?」
ある日曜日の朝。
自分のスマホをチェックすると。
催眠アプリが消えていた。
いきなりインストールされて、その後いきなりアンインストールされた。
勝手なアプリだ。
でもまあ、これでもう僕に悪魔の誘惑をするものが無くなったんだ。
そう思い、喜んでいたら。
ピンポーン。
日曜朝なのにインターホンが鳴って。
ドカドカと、誰かが家に入って来て。
階下の両親が騒ぐ音が聞こえた。
……なんだろう?
僕は自室を出て、覗きに階下に下りた。
すると……
黒服男性がいっぱい、ウチに来てた。
……何?
混乱する僕を見つけた彼ら。
彼らの中に1人、女性がいた。
どうもその女性がリーダーみたいで。
僕に
「
そう言ったんだ。
とても強い意思が込められた目で。
僕としてはとても逆らえず
「は、はい!」
そう返してしまう。
彼女はそれに満足そうに頷き。
こう言ったんだ。
「おめでとうございます。貴方は選ばれました」
……は?
すると彼女は話してくれたよ。
僕に送信された催眠アプリは試験だったんだ、って。
何のリスクも無しに、他人の尊厳や意思を踏み躙れる状況になったとき。
それをせずにいられるかどうか。
それを測るための試験。
あのアプリは偽物で。
例え住所氏名を入力送信しても何も起こらない代物だった。
それが真相。
どうやら、この試験は全国テストで50位以内になった中2男子全員に行われていたらしい。
理由は「中2が一番性欲が高まり、暴走しやすい時期だから」
そうだったのか……。
僕としては騙されていた、試されていた不愉快さはあったけど。
一瞬だけど、幼馴染の魂を破壊しよう考えたことに対する後悔があったので。
それがただの勘違いで、そもそもその危険性が無かったんだと少し楽になった。
そして
「それでです」
安心している僕に。
その黒服女性は続けてこう言って来たんだ。
その言葉を聞き
「貴方には今から我々と一緒に来ていただきます」
……僕は
「全寮制。超高度な教育を施す特殊機関に。そしてそこでの教育終了後、速やかに働いていただきます。加えて貴方には拒否権はありません」
絶望した。
なんでも、この試験は「高い才能と高い自制心とモラルを持つ人間を見つけ出すため」行っていたらしい。
未来の理想的なこの国の支配階級の人間を育成するために。
なので当然、合格したら国に連れて行かれる。
徹底的な特別教育を受けさせるためにだ。
「貴方は素晴らしいです。他の候補者は全員数日でアプリを使って脱落しました。なので拒否権が無いのです。分かってくださいますよね?」
こんな試験を行うんだ。多分国が危機意識持ってるんだよ。
だから黒服女性の言葉は当たり前のことに感じたけど……
僕は涙が止まらなかったよ……。
ああ……僕にはもう、普通の人生は無いのか。
他人に評価されるのは嬉しい。
嬉しいけど……
こんなのは。
僕が思い描いていた理想の生活。
そんなのとはこれは絶対違う。
その日、僕の抱いた理想は儚く散っていった。
自主企画参加作品「催眠アプリ」 XX @yamakawauminosuke
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