彼女と、手を繋いで。

うびぞお

お題「はなさない」 怖い映画を観たら一緒に夜を過ごそう 番外編

 動物園デートから手を繋いで帰ってきた。


 玄関で靴を脱ごうと彼女が手を離そうとしたので、わたしは手を離すのが嫌で少しだけごねる。


「意地悪ですか?」

「離したくないだけよ」


 諦めて手を離し、そして、部屋でまた彼女の手を取る。


「甘えん坊モードですね」

「縫い付けちゃいたいモード」


 なんて馬鹿なことを言うと、彼女の目が一瞬宙を泳ぐ。脳内映画検索をしている彼女の口角がうっすらと上がったので、ヤバそうな映画を思い付いたのが分かる。


 彼女の手を離そうとすると、逆にギュッと握り返された。

「ねえ、三人の人間を強引に繋いじゃう映画と、引き離されることを拒否して壊れた一卵性双生児の映画と、どちらか」

「どっちも嫌だから…っ!」

 目を少し爛々とさせた彼女は、予想以上に酷そうな映画を持ち出して、せっかく楽しかったデートを血みどろで終わらせることに躊躇しない。

 わたしの拒否に彼女は、ちっと舌打ちして繋いでた手を離した。



 あれ、見捨てられた気分…。



「もう少しソフトな作品をお願いするわ」

 わたしは妥協点を提案する。そう言うと仕方ない、というように彼女はふっと息をつく。


「離さない…ですね」

 彼女は長い睫毛を伏せ、考えながら部屋着に着替える。ちらりと見えた下着姿に唆られたのは秘密。


「クライミングをする主人公ヒロインが親友と一緒に、荒野に放置された古びて赤錆だらけの600mの鉄塔に上るんです」

 あらすじを話す彼女の目は、脳内で映画を見ているので、透けているようだ。

「梯子が崩れ落ちて凄まじい高所に二人は取り残されます。生残りサバイバルの始まりです」


 だから、映画の話をする時の彼女は綺麗だ。


「恐ろしい高さの中空でよすがの鉄塔から離れられない」


 話す彼女の頬に触れる。


「でも、主人公が親友や鉄塔から手を離した時に何かを手に入れる、そんな物語だと私は思います」




 わたしは彼女の話を塞ぐ。

 もう、はなさないで、と思いながら。













 ★☆

 ネタにした映画「ムカデ人間」「戦慄の絆」「フォール」


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彼女と、手を繋いで。 うびぞお @ubiubiubi

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