悪役令嬢は秘密を話さないで欲しいだけなのに、なぜか周りの人たちからチヤホヤされ始めました。

米太郎

第1話

 朝起きると、目に入るのは綺麗な天蓋。

 天井部分には、重厚な布が何層にも折りたたまれている。

 このひだの数を数えるだけで、眠りに落ちてしまいそうなくらい何回も折られている。


 そこには、細かな刺繡も入れられている。

 すべて手作業で縫われているのであろう。

 一つ一つ同じ模様は無いように、バリエーションも様々である。


 天にある星に同じものが無いように。


 目を開けているのに、夢の世界にいるような。

 そんな気分にさせてくれるベッドなのだ。


 こんなベッドであれば、何日寝ても飽きることはないだろう。

 そして、こんなベッドであるからこそ、何日寝ても慣れることはできないのだ……。


 夜も空けて来たのであろう。

 明るい日差しと共に、天蓋の外から声がかかる。


「お嬢様、おはようございます。朝でございます」


 明るい侍女の声だ。

 私もそれに答えながら、天蓋の外へと出てくる。


「おはようございます」


 私の姿を見た侍女は、少しうっとりとしたような表情を浮かべて、要件を言う。


「朝食の用意ができましたので、お越しくださいませ」


 決まり文句のような、いつもの業務連絡を済ませると、侍女は部屋を出て行った。

 私は、優しい笑顔を浮かべて、侍女を見送る。


 見えなくなるまで、微笑んだ表情を顔に張り付けて。



 ……ふぅ。行ったみたいだね。

 誰かに見られるというのも大変なものよね。


 いつまで経っても、この部屋にも、このにも慣れないんだよね。

 肩を落としながら、姿見の前へと歩く。


 鏡の中には、この世のものとは思えない美少女がいるのだ。

 私自身が緊張しちゃうくらい。


 金髪碧眼。

 容姿端麗。

 愛らしい目に見つめられたら、一瞬で惚れちゃいそう。

 こんな顔に微笑まれたら、一コロよね……。


 スタイルだって良い。

 透き通るような白い肌に、細く長い腕。

 見ているだけで、幸せを感じてしまうくらい。


 そりゃあ、侍女もうっとりと見ちゃうよね。


 鏡の中の自分を見ているだけで、自分自身でも、うっとりしてしまうような美しい容姿をしている。



 別に、私がナルシストっていうわけじゃないの。

 乙女ゲームの中のキャラクターだから、こんなに可愛らしく作られたんだよね。


 私は、なぜか乙女ゲームの中に入ってしまっていたようだったのだ。

 元の世界になんて、戻れるのかはわからないけれども。


 とりあえず、この世界にいるのであれば、このキャラクターになり切り必要があるかなって、毎日頑張って演じているのだ。


 私自身は、もっとアクティブに遊びたいんだよ。

 もともとさ、こんなに、おしとやかな性格でも無いし。

 テーブルマナーって何っていう感じだし……。


 それでも、この乙女ゲームは好きだったから。

 この乙女ゲームの世界観は壊したくないっていうか。

 だから、なるべく波風が立たないように、このキャラクターになり切って振る舞ってるの。



 けど、このキャラは、サブキャラなんだけどね。

 メインの恋愛していく主人公の当て馬的な存在。


 登場する男の子たちは、最終的にはみーんなメインキャラに取られていっちゃうんだよ。

 メインの子は、何股しているんだよっていうね。


 倫理観どうなってるんだよって思うけれども。

 それが、この乙女ゲームだから。

 私も好きだし。


 そんなメインキャラクターに花を持たせてあげるべく、動いてみているんだけれども。

 一向に慣れないの。


 はぁ……。

 もっとさ、外に出て遊びたいよね……。


 この世界の高級な食べ物は食べられている気がするけれども。

 もっとジャンクフードとかさ。

 なんか、自由に遊びまわりたいなー……。


 この生活も良いけれども、元の高校生活に戻りたいなー……。


 貴族社会のスカートっていうのも、邪魔なのよね。

 私自身が天蓋みたいになっちゃってるし。

 そんなに日中まで夢見なくていいのよ。重いし暑いし。


 一人の時には、素が出てしまう。

 ベッドに腰掛けて、足を組み、重いスカートをバサバサと上下に動かして、スカートの中に風を送る。

 高校だったら、よくやっていたこと。


 すごい暑い日だったら、もっと中まで見えるくらいバサバサと。

 女子高だったら、別に見られても何の心配もなかったし。


 この開放感が良いのよね。


 スカートを全部上げて、数秒感、涼を得て戻す。

 よし、気持ちを切り替えて、朝食でも食べようかな。


 スカートを戻した視線の先に、見慣れない男性の顔があった。


 まずい……。

 私のはしたない一面を見られてしまった……のかな……?


 私は、何事も無かったかのように、取り繕って笑顔を浮かべたが、時すでに遅しであった。


「なかなか、大胆なことをされるのですね……」

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悪役令嬢は秘密を話さないで欲しいだけなのに、なぜか周りの人たちからチヤホヤされ始めました。 米太郎 @tahoshi

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