第3話 妹、柊未来!

 山岳部の練習を終え帰宅した俺は部屋着に着替え、ベッドで横になる。ベッドの隣のローテーブルに積まれたラノベから一つ手に取る。


「こ、これは……」


 包装を外してページをめくると、美人の魔女の風呂に入っている絵が描かれてあった。

 見えそうだけど、ぎりぎり見えない……湯気がいい活躍してるぜ。

 俺は口絵に描かれた際どい描写をじっくりと堪能する。

 次の口絵を見ようとページを繰るのと同時に自室の扉が開かれる。


「お兄ちゃん! ご飯だよ!」


 俺は慌ててラノベをベッドの下に隠す。


「部屋入るときはノックしろっていつも言ってるだろ……」

「そんなことどうでもいいでしょ?」


 どうでもよくない。えっちな絵見てるのバレちゃうだろ。

 中学二年生の妹の未来は俺とは全く真逆の陽キャだ。学校のカーストのトップで陽キャ特有の「ノリ」で生きている。

 俺は階段を下り、カレーが並べてある食卓へと向かう。


「いただきます!」

「いただきます」


 未来は頬杖をついて、俺がカレーを口へ運ぶのを眺めていた。


「おいしい?」

「おいしいよ」


 未来は俺の返事を聞きにっこりと微笑むと、スプーンを動かし始める。

 柊家は両親が共働きで夜遅くに帰ってくる。そのため、未来が夕食を作ってくれることが多い。

 未来がカレーを掻き込む横で黙々とカレーを食べていると、未来は口を開く。


「そういえば、お兄ちゃんは何のエロ本読んでたの?」


 ば、バレてたのか……。


「なんか下着姿の女の子がいっぱい写ってる本読んでなかった?」

「そ、そんなことより俺が最近入った部活の方が気にならない?」


 俺は強引に話題を切り替える。


「あのお兄ちゃんが……部活に……?」

「そ、そうそう。そっちの話の方が気になるだろ?」

「確かに気になる!」


 なんとか話を逸らせたみたいだ。


「それで何の部活入ったの?」

「山岳部」

「何その陰キャがいっぱい居そうな部活……。やっとお兄ちゃんが陰キャでキモオタでエロジジイから卒業したと思ったのに」


 未来は残念そうに言う。

 いや、言い過ぎ言い過ぎ。する話間違えたかも。


「一応女子と喋れるくらいには成長したんだぞ」

「え……ほんと?」


 未来は口をぽかんと開けたまま固まっている。

 女子と話せるようになっただけで驚かれる俺、どんだけ陰キャなんだ。


「お兄ちゃんもしかして彼女作るの?」

「作るわけないよ」

「えーそうなの? お兄ちゃんに彼女ができて、そこから結婚して、家を出て行ってくれたらいいと思うんだけどなー」


 未来は勝手な妄想を膨らませて言う。

 結婚してほしいっていうよりかは、将来ニートになりそうな俺を家から追い出したいだけだよな……。


「それで山岳部に好きな子はいるの?」

「だから彼女作る気ないって」

「モテる子はいないの?」

「山岳部には……残念やつしかいないぞ」


 誰かさんの顔が頭の中で浮かんだけど……あいつは俺の中では残念なやつだ。

 俺と未来はカレーを食べ終え、食器を流し台へと運ぶ。親が家にいないときの家事は基本未来に任せているが、食器洗いだけは俺が担当している。スポンジで食器類の汚れを落としている間に、未来はソファの上で寝転がってバスケの試合の生中継を観ていた。

 さすが一年からスタメンを勝ち取ってる未来だ。上手くなるために技術を盗もうとすることは欠かさないんだな。

 俺は洗剤を洗い落としながら未来のバスケに取り組む姿勢に感心していると、未来はテレビに目を向けたまま言葉を発した。


「お兄ちゃんって山岳部に必要な用具買ったの?」

「そういえばなんも買ってないな……」


 山岳部ってそもそも何が必要なんだろう。靴とリュックくらいなのかな。

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