第30話 夜の会談(健全)
「あぁあ……そんなぁ………」
ひとしきり叫んだユリィは挫折したかのように床へ手をついて涙をこぼす。
「そんなに嘆くことお……? 無茶しなければ良いだけでしょ?」
「はっ! そうですね! 私頑張ります、べリネールさん! だからバンバンお仕事を!」
そんな風に欲望全開でべリネールに縋り付く
(結局話したいだけだろうに……顔の見えない者達と。……それに、自身を毛嫌いした者のためにだって命を張れるこの子が………無茶をしないわけがない)
◇
その後、いつの間にか、ユリィとリリフィーにゃ、べリネールの三人とズィーの一匹の間には
〝ユリィは二回も血を浴びせられたから、それについて早急に対処しなければならないだろう。〟
という刻一刻という議題が浮かんでいた。
その議題を基に話をするにあたって、前提としてリリフィーにゃは語った。
「ユリィに掛けられた呪いについては、出来る限りの呪の解呪はしましたけど。一日に二回もくらって重複しちゃってるせいでぇ完全には解けなかったです」
と。
まさに今日、可能性の原石である魔法使いの職についたリリフィーにゃ。アルホゥート学園では上位の成績を常にキープし続けた優秀生。
ユリィとの出会いを経て、自分なりに出した結論として「ユリィが闇属性の魔物に自分から近づくなら、もしもの時の為に自分は危険からユリィを救い出せる方法を身に着けなければ」というのが最終地点であったリリフィーにゃ。
しかし、どれだけの策を尽くしても今の実力で、二度も強力な呪をかけられたユリィの身を清めることはできなかった。
「今、優秀な白魔導士らは皆出払っていますから」
「イリィ様とも連絡がつかないってなっちゃうと……」
べリネールも同じように頭を悩ませた。
先ほどべリネールが口にしたように、現在アルホゥート国内に腰を下ろしている、優秀な白魔導士たちの殆どがとある任務を請け負い国外へ出てしまっていた。
「でも、死期が近づいているにしては元気ですよ? 私」
呑気そうにユリィは自らに指を刺す。
そんなユリィの舐め腐ったようなのほほん、とした態度に、一瞬、ピキッ、と額に青筋を立てたリリフィーにゃは「確かに」と考え直す。
「まぁ、その調子だと
「うーーーん……考えてもしかたないのなら、寝ようかな」
「えっ!?」
「……確かに、そのほうがいいですね。午前中であれば彼、
本脳のままに動いているのなら尚の事、」
「……そうですね」
「べリネールさん、今日は、夜中だったのに来てくださって、本当にありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、ありがとうございました。リリフィーにゃさん」
おやすみなさい、とべリネールが手を振る。その行動が重厚な鎧を装備していたこともあり、堅物なイメージがリリフィーにゃの中に根付いており、相当意外だったのだろう。
目を一瞬見開いたリリフィーにゃは、それに応えるよう笑って手を振り、階段を登っていった。
「……さてと」
と。出された紅茶をどういう原理か、ヘルムの上から啜った後、べリネールは「私も寝ますね」と立ち上がろうとするユリィを引き留める。
「はい? なんでしょう」
「呪いを掛けられた張本人である貴方には一番休養をとってほしいですが、その、少し……お話をしませんか」
ユリィは即答で、はい。と応える。そしてガタン、と音が鳴るくらいの勢いで椅子に座り直す。
「ふふ、ユリィさんは元気がよくて安心します。
今、城には村からの難民が多いですから」
「呪いを解いたとしても、元気にはなれませんよね」
べリネールは、そんなふうに眉毛を八の字に下げるユリィを暫く見つめた。
そして胸元で両手の指を絡め、丸めるユリィの手に自身の手を重ねた。まるで不安の表れのような仕草を、包み込むように。
「リリフィーにゃさんは、実は泣き虫なんですね?」
「えっ?」
誰も知らないような相方の性質を、見事に見抜かれたのか。ユリィは落としていた目線を上げ、素直に驚いた。
「これでも私は国王の重臣ですよ、人の様子を窺い、見抜くのも得意です。………貴方のことも、」
「えっ、えっ!!?」
「ふふ」
微笑みを見せるべリネールを前にユリィは立ち上がる。焦り、頬を赤くしてから質問をした。
「で、では、私が! そのっ!」
「ええ、なかなか
稀有な癖を持っていらっしゃるなと」
そして変わらず微笑み続ける。
ユリィは変わらずその笑みの前で悶え、のたうち回る。
「あぁぁあ〜〜」
「ふふ………ユリィさん? 私の話に戻りますね、」
「え……? ああ、はい」
まだ頬の熱と気まずさを抱えながら椅子に座り直す。
「ユリィさん、冒険者を辞めて、騎士になりませんか」
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