あいつはベタ惚れでチョロいから
縁代まと
あいつはベタ惚れでチョロいから
ヘレナという女をフッたのは一年前のことだ。
迷っていた時に親切にしてやったらすぐに懐いた。どんくさいが顔は良かったんで、軽く口説いたらあっという間に俺の女になったのを昨日のことのように思い出せる。
だが五年ほど付き合い、飽きてきた頃に結婚を望まれるようになった。
鬱陶しいったらありゃあしない。
そこで俺はヘレナを諦めさせるために、他の女を連れてきてフッてやった。
街中で通行人に聞こえるように言ったのも効いたんだろうな、逃げ出してそれっきりだ。
俺は上級魔法使いだぞ。
顔が良いだけの女でなくても引く手数多なんだ。
しかしその後、ヘレナは大魔法使いの子孫で突然覚醒したと知った。
一年間でかなりの数の功績を耳にしたが……力の使い方がヘタクソだ。
俺ならもっと上手く使って何倍もの金を稼げるのに。
そこで名案が浮かぶ。
あいつとヨリを戻して、俺がプロデューサーになればいい。
大きな力は力の使い方をわかってる奴が扱うべきだろ?
あれだけベタ惚れだったんだから簡単だ。
連絡するとすぐに駆けつけてきたのだから、それは確信に変わった。やっぱりこいつはまだ俺のことが好きだ。
しかしここは演技も必要だ。
あの日のことはドッキリで、後から種明かしする予定だったが気まずくなって打ち明けられなかったと涙ながらに伝える。
俺が悪かった。
後悔してる。
お前を忘れた日はない。
もう一度やり直したい――そう言い重ねて抱き締める。
するとヘレナも抱き返してきた。
「もうはなさないで……!」
本当にチョロいな。
そう思っていると声が出ないことに気づいた。ヘレナは俺を見つめる。その周囲には強力な魔力のオーラが見えた。
「もう話さないで」
無詠唱で、魔法使いにとって重要な声を奪われた。
読み違ったと血の気が引いたところでヘレナが言う。
「無力な貴方を、これからは私が養ってあげる。ずっとずっと、死ぬまで」
――まだ俺のことが好き。
その部分だけは、最悪の形で当たっていたようだ。
あいつはベタ惚れでチョロいから 縁代まと @enishiromato
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