はなさないで、犯罪です

冬野瞠

可愛いペットとの楽しい散歩

 日課の散歩に出かけると、ちょうど住宅地の四つ辻でご近所さんと出会でくわした。

 立ち止まって他愛ない世間話を始めると、僕らが連れているペット同士も挨拶を交わす。

 その様子を見て、ちくりと心のどこかが痛んだ。この国では――というか世界中で――この珍しいペットを飼うのが流行はやっている。一過性のブームというやつだ。僕もご近所さんもブームの前から飼い始めていたので、命をアクセサリー扱いする無責任な奴らとは一緒にされたくないが、世間の目はどうだか知れない。

 立ち話は自然とペットの話題に流れる。


「知ってます? 隣町の河川敷、捨てられたペットが繁殖して大変なんですって」

「うわ、最悪ですね。去勢手術もしてなかったんですか。ペットを物みたいにそこらへんに捨てるとか、どんな神経してるんでしょうね」

「ね~。本当に、かわいそう」


 悲しい気持ちに襲われながら、リードの先の小さな命を見下ろす。彼らは僕たちでいうと三歳くらいの知能があるらしい。三歳といったら可愛いさかりだろう。そんな愛おしい存在を物のように捨てるだなんて、非道ひどすぎて想像しただけで身震いが起こる。

 かわいそうなだけでなく、野生化したペットは自然の生態系に影響を与える。それが分からないはずがないのに、思っていたのと違ったとか飽きたとか、自身の都合しか考えないなんて言語道断だ。

 ちょうど近くに設置されている掲示板にも、ペット放棄禁止の張り紙がある。


「ペットを捨てないで、自然に放さないで

 ペットの放棄は犯罪です! 責任を持って最期まで面倒を見ましょう。

 特に、ニンゲンは環境を破壊せずにいられない愚かで愛らしい存在です。この星へ連れてきたのは我々です。管理を徹底しましょう。」


「ダレカタスケテ~」

「オカアサン、オトウサーン」

「カエリタイヨ~」


 僕らのペットがいつも通り可愛らしく鳴いている。

 ご近所さんと別れ、僕は十二本の足をくねらせながら、リードを引いて川沿いの散歩道の方へ向かった。

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はなさないで、犯罪です 冬野瞠 @HARU_fuyuno

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