第44話 第十一回イベント-終幕

エリアルヘロンとエリアルシュトレインがエナジーブレードを装備する。



アリスのアーマードスーツが近づいてくる。



「来るぞ!」



ミネーが叫んだのと同時にアリスのアーマードスーツが急加速して斬りかかる。



「ぐっ!」



ミネーが受け止める。



「はっ!」



すかさずエリアルヘロンがエナジーブレードを振り下ろすが、どこからか飛来したシールドに受け止められた。



シールドの裏面に取り付けられたライフルが火を吹く。



「危なっ!」



エリアルヘロンが間一髪で回避する。



《それもシンギュラリティの力?ゼロ距離射撃も避けれるの?》



「分からない、今のは身体が勝手に反応した」



《新人類ってのも、あながち間違いじゃ無いのかもね》



アリスのアーマードスーツからファンネルが射出される。



「俺たちがどれだけファンネルを相手にしてきたと思ってる、ファンネルを使った戦術は通用しないぞ!」



ミネーがファンネルをぶった斬って言った。



《私はシンギュラリティじゃないからね、使えるものは全部使わないと》



アリスがシールドを操作する。



シールドからビーム刃が突き出す。



「ソードビットンの上位互換か」



ミネーが落ち着いてシールドを避ける。



シールドは急旋回してライフルを発射した。



「こんな装備見たことないな」



「ファンネルは全部破壊し終わった、あとはそのシールドだけだよ」



俺は最後のファンネルを破壊して報告する。



《簡単に壊せると思わないでよね!》



アリスが怒鳴る。



シールドが緑色に光る。



「また緑色かよ、勘弁してくれ」



ミネーがうんざりしたように言う。



「シールドをシールドで覆うなんて」



エナジーブレードを突き刺そうとするが全く受け付けない。



「シールド一枚に手こずってる場合じゃ無いのに.....」



「ハナサギはアリスを頼む!シールドは俺がなんとか抑え込む!」



エリアルシュトレインがシールドの前に飛び出す。



《一騎討ちだね、ハナサギ君!》



アリスのアーマードスーツがビームアックスを振りかぶる。



エリアルヘロンもエナジーブレードを構える。



二機の武器が衝突し、火花を散らす。



《私だってずっとあの時のままじゃない。シンギュラリティを二人相手出来るぐらい成長したんだから、舐めないでよね!》



「別に舐めてないし、そもそも弱いとか思ったことないから」



俺は弁明したが、かえって刺激してしまったらしい。



《そういうフォローが一番癪に触るのよ!》



アリスのアーマードスーツの速度が上昇する。



「面倒くさぁ」



俺は思わず呟いた。



相変わらず一進一退の攻防は続いている。



「シンギュラリティでもないのにこの強さ.....!」



《シンギュラリティなんかじゃなくてもこの程度、余裕で戦えるのよ!》



アリスが言ってのける。



「お前は努力をいっつも隠そうとするよな!」



シールドを引き付けているミネーが口を挟む。



《なっ、バラすなー!》



アリスが恥ずかしそうに叫ぶ。



「なんだよ、ハナサギが『スペースウォーリャーズ』始めてから、講義サボってまでプレイしてたじゃねえか。ハナサギに追いつけるようにって」



《くぅ.....!バカバカ!そんなことっ.....》



アリスが足をバタバタさせる。



《ミネーだって同じじゃない!》



「お前と一緒にするな、俺はちゃんと空きコマでやってたわ!」



《そんな変わんないでしょ!》



「えーと、喧嘩はやめて.....」



《あんたはこっちに集中しなさいよ!》



アリスのアーマードスーツがビームアックスを振り下ろす。



「うわっ、喧嘩か勝負かどっちかにしてくんないかな?」



「というか俺たちを倒してもシンギュラリティっていう要素が消えるわけじゃ無いと思うけどな」



「俺もそう思う。まぁカガリさんが運営に働きかけると思うけど」



《カガリが?》



「うん、仮にあの人にその意思が無かったとしても俺が頼むけどね」



《へぇー、そこまでしてその力を保持したいんだ》



「え?違う違う。シンギュラリティを『スペースウォーリャーズ2』で実装しないでくれって。もし実装されてるなら消去してくれともね」



《そんな強大な力を手放すの?正気?》



「なんで正気を疑うんだよ。シンギュラリティの力は凄かったさ。でもその力のせいでいろんなトラブルが起きた。『スペースウォーリャーズ』がおかしくなったのも、アリスと戦わなくちゃならなくなったのも全部シンギュラリティのせいだから」



俺の言葉にミネーが同意する。



「シンギュラリティの力には厄介事がついて回る。俺たちに扱えるようなものじゃない。あ、ちなみに俺は引退するぞ。いつまでもゲームで遊んでる訳にはいかないからな」



《や、辞めちゃうの?》



「おん。就活の準備も今のうちから始めておきたいし」



「俺も『スペースウォーリャーズ2』を遊ぶつもりはないよ。俺は争いの火種になることが多かったから」



俺も今までの短くも濃密な過去を思い出す。



楽しかったけど、それ以上に使命感に押しつぶされそうになることが多かった。



「それに、友達と殺し合うなんて俺はしたくないしね」



《.....》



アリスが黙り込む。



「お前のシンギュラリティに対する嫌悪は充分理解したよ、でももう忘れられるな」



《ごめんなさい、色々と》



「気にすんな、さ、戻ろう.....と言いたい所だが」



ミネーが困ったように言う。



「アリスがなんで今いるのかって言う言い訳を考えないとな」



《大丈夫よ、家族の都合で帰省するって伝えてるから、このままやられれば大丈夫》



「あ、そっか倒さないといけないのか」



俺はミネーにその役を譲る。



「やっていいよ」



「なんで俺なんだよ、気まずいだろ」



「俺だって気まずいよ」



《はは、どっちでもいいよー》



アリスが笑いながら言う。



結局俺がやることになった。



「じゃあ、また後で」



《うん》



エリアルヘロンがエナジーブレードを振り下ろす。



真っ二つになったアリスのアーマードスーツが爆散した。



「今度こそ終わりだな」



ミネーが言う。



「あぁ、今度こそ帰ろう」



赫と金の軌跡が遥か彼方へ飛び去っていく。



「レーダーにハナサギ君とミネーを確認!終わったみたいだね」



念の為外で待機していたエリアルゴーストから通信が入る。



ユカが肩の力を抜く。



「良かった.....」



「二人とも戻ってくるんですね」



アテナも嬉しそうだ。



「アイツら、とんでもないな」



「ふっ、俺たちじゃ勝てそうもないな」



カナとグレイスも呆れつつも笑顔を見せる。



ここでついにアナウンスが入った。



《敵の全滅を確認、第十一回イベントはプレイヤー陣営の勝利です!報酬についての詳細は後日お知らせいたします。みなさま本当にお疲れ様でした!そして胸の熱くなる戦闘をありがとうございました!》



皆が大歓声を上げる。



格納庫にエリアルヘロン、エリアルシュトレイン、エリアルゴーストが入ってくる。



みんなが手を振って歓迎してくれているのがよく見える。



俺はエリアルヘロンからすぐに降りてみんなと再会した。



全力颯爽してきたヴァリュートがハナサギに抱きつく。



ユカがミネーを労う。



グレイスも隣で祝福する。



カナがこちらを向いて片眉をクイッと上げる。



俺は軽く頷いて答えた。



するとカナはニヤッと笑って歓喜の輪に混ざりにいった。



エレンが少し浮かない顔で近づいてくる。



「エレンさん.....」



「カガリのことは残念だ。でも不思議だ。君になら倒せてもおかしくないって思えてくる。これもシンギュラリティの力かな?」



「シンギュラリティの力はもう手放すことにしたんで」



俺はエレンに伝えた。



この人ならすぐにカガリさんと会うだろう。



「そうか、それは引退、と思って差し支えないな?」



「はい。カガリさんにもそう伝えてください」



「分かった。伝えておくわ」



「おーい、ハナサギ!」



ミネーが俺の名前を呼ぶ。



「このあと飯行くだろー!?」



「もちろーん!」



俺は皆の元へ走り出した。



こうして俺の『スペースウォーリャーズ』ライフは幕を閉じた。



『スペースウォーリャーズ2』がどんな世界か見ることができないのは少し残念だが、自分で決めたことだ。



シンギュラリティが無い世界も必要なんだろう。



俺はそう思うことにした。



『ありがとう、スペースウォーリャーズ、そして』



エリアルヘロン。

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