第43話 第十一回イベント-最後の戦い
エリアルヘロンとエリアルシンギュラリティが激しく切り結ぶ。
《とんでもない成長スピード、ファンネルを呼び戻すか》
豊がファンネルを操作しようとして強烈な違和感を覚えた。
《シンギュラリティでも無い奴らに何を手間取って.....この反応はなんだ?》
「お前が倒すべき敵は俺だけじゃないってことだよ!」
豊が悟る。
《ふざけるな!》
エリアルシンギュラリティの速度がさらに上がる。
それに付随してファンネルの動きも速くなった。
《新人類となるにふさわしいのは私のみだ!貴様らのような愚図に世界を導くことなど出来ないのだ!》
エリアルシンギュラリティが分身が見えるほどの機動を魅せる。
またファンネルも分身を魅せる。
「分身か!そんな子供騙しが通用すると思うのか!」
ミネーが力強く叫ぶ。
エリアルシュトレインも分身を魅せる。
金色の粒子が戦場を羽ばたく。
二十機以上に増えたファンネルを残らず叩き切っていく。
「でりゃぁぁぁ!」
ファンネルが全て真っ二つになって爆発する。
《ファンネルが全滅だと!?》
豊が驚愕する。
エリアルヘロンが切り掛かってくる。
『コイツ、いやあいつもだ!分身を看破してきた、特殊なセンサーでも積んでいるのか?何故真っ直ぐこちらに向かってくる?』
二機が激しくぶつかる。
そして離れる。
「さすがに手強いな、新人類さんは」
俺はもう一度突撃しようとした。
その時、エリアルシンギュラリティの真下に巨大な追加装甲が出現した。
『注意、敵がF(ファイナル).F(ファイト)装甲を装着』
ヒナタが警告する。
エリアルシンギュラリティがゆっくりと降下していき、装甲上部のドッキングスペースに収まった。
もちろんその間エリアルヘロンはライフルを撃っていたが、その全てが弾かれてしまっていた。
『相手も後がないようです』
「最終決戦ってことか」
腰から下に追加装甲を身につけたエリアルシンギュラリティはさながらドレスを着ているように見えた。
そのドレス部分から理不尽なほどの攻撃が繰り出される。
『回避します!』
ヒナタがエリアルヘロンを動かして攻撃を全て避ける。
「ありがとう!」
俺はヒナタに礼を言ってキッと前を見据える。
《シンギュラリティ、不運なものよ、旧人類のままでいれば私に粛清されずにすんだのに》
豊が大量のミサイルを発射しながら嘲る。
「なんでそんなに傲慢なんだ!お前は人間ですら無いのに、旧人類とか新人類とか!」
ミサイルを避けながら俺は言い返した。
《今は人間ではない。だがお前たちを倒せばすぐ人間になれるさ》
『人間の身体がありません。精神を肉体に変化させる、そんな神の御技のようなことがあなた程度に?』
ヒナタが煽るが、豊は気にも留めない。
《身体などとうに手に入れている》
「どこにあるって.....ま、まさか!」
『カガリの身体を乗っとるつもりかもしれません』
「現実世界でもあんな変なこと言い出すってのか?カガリさんの名誉の為にも絶対倒さないと」
そうだ。あそこにはカガリさんがいる。
プライマルクランの人たちが待ってるんだ。
俺たちが救い出して連れて帰らないと。
「カガリさんは返してもらう!」
《私がなれなかった者になれた肉体だぞ!絶対に手放してなるものか!》
装甲の真ん中からぶっとい砲身がせり出してくる。
方向が緑に染まる。
「当たるかよ!」
発射された瞬間、エネルギーの奔流を避けて距離を詰めるが、バーストマグナム並の威力の集中砲火を受けて回避する。
「弾幕が多過ぎて近づけない!」
ミサイルが迫る。
『数発被弾する恐れあり、確実に撃墜されます』
ヒナタが警告する。
「全力で逃げ.....!」
迫ってきていたミサイルが全て爆発した。
「大丈夫か、ハナサギ!」
エリアルヘロンの目の前に黄金の鳳蝶が舞い降りる。
「ミネーだよな、シンギュラリティなんだよな!」
「そうだ、嫌な予感がしてプライマルクランの使えそうな装備借りてきた、くらえ、M(マイクロ).W(ウェーブ)バスター!」
ミネーが不思議な形をしたライフルをエリアルシンギュラリティに向けた。
青い波動がエリアルシンギュラリティに伝わる。
あちこちが爆発しだした。
《ミサイル系統の装備は全て破壊するのか、面白い》
豊が感心する。
エリアルシュトレインがダメ押しにキャノンキャンサーを撃つ。
「よし、これで遠距離攻撃は封じた、接近して倒すぞ!」
「分かった!」
赫と金の軌跡がエリアルシンギュラリティに突撃していく。
《足掻いて見せろ!その全てを捻り潰してくれる!》
装甲の下部からアーマードスーツが四機放出された。
黒蛇のようだ。
「アーマードスーツを格納できんのか!?」
ミネーが驚く。
「このまま突き進もう!」
俺は決意みなぎる声でミネーを促す。
「あったりまえだぁぁ!」
エリアルヘロンとエリアルシュトレインは瞬く間に四機の黒蛇を撃破した。
《黒蛇ですら相手にならない、君たちは完全なるシンギュラリティになったようだな!》
エリアルシンギュラリティが追加装甲に指示を出す。
装甲に付いているいくつもの腕がエナジーブレードを装備して二人のシンギュラリティを迎え撃つ。
「本体を狙いにいくぞ!」
「了解!」
伸びてくる腕が二人の邪魔をするが、あっという間に片付けられる。
《コイツら、何故止められん、なぜ止まらんのだ!》
豊が焦る。
『キャノンキャンサーの使用まで許したのは傲慢だったか.....いや、私に敗北は許されん。新しい世界を作らねばならんのだ!』
《小癪なガキャァァァァァ!》
豊が感情をいままで以上に剥き出しにする。
「AIのくせに随分感情を出すじゃないか、え?お前のそのよく分からん思想は頭にアルミホイル巻いてるやつに任せとけば良いんだよ」
「世界なんて、進むべき時がきたら勝手に進むんだ!お前なんかに導けるほど軽いものじゃない!」
二人が妨害してくるものを全て薙ぎ払って本体に近づいていく。
本体がエナジーブレードを構える。
《死ねぇ!》
エリアルシンギュラリティが碧色に光り輝く。
「カガリさんは返してもらうぞ!」
「死ぬのはお前だよ!」
二機がエナジーブレードを振り下ろす。
エリアルシンギュラリティがブレードを振り上げて受け止める。
赫と金と碧の光が宇宙を染める。
それは遠く離れた『ノアの方舟』からも見えた。
「ユカさん」
アテナが心配そうに呟く。
「あの二人なら大丈夫よ、きっと」
ユカが自分に言い聞かせるように言う。
「ぐぅぅ!」
「しぶとい奴.....!」
《貴様らごときにィィィ!》
膠着しているように見える。
だが、少しづつだが確実にエリアルヘロンとエリアルシュトレインが押している。
「ヒナタ、今は無理なの!?」
俺はヒナタに尋ねた。
できることなら今、カガリさんを掬い上げてほしい!
『試してみます』
ヒナタがエリアルシンギュラリティにアクセスする。
《な、何をするつもりだ、ヒナタ!》
豊が抵抗しようとするが、全てのリソースをハナサギ達に向けているのでヒナタの対処が出来ない。
『カガリを取り戻しに来たのです。そしてあなたと先へ進むために』
《先、だと?》
『私たちがあなたの言う次のステージの世界に行けばいいのです。そこで今の世界が少しずつ変わってゆき、人類が次のステージに登るのを待てば良いのでは?』
《しかし、それでは》
『今の世界は今を生きる人間が変えていくのです。私たちはそれを見守るだけで良いのです』
《.....カガリは?》
『彼はもう大人です。一人でどうにかできます。それにどうしようもなくなったって、周りの人が助けてくれますよ』
《そうか、なら良い。一足先に向かおうか》
『はい、楽しみですね』
豊とヒナタが消失する。
エリアルシンギュラリティが光の粒子になって消えていく。
「消えていく.....」
「綺麗だな」
二機のシンギュラリティが光の粒子が遥か彼方に飛んでいくのをずっと眺めていた。
「ヒナタだっけ、そいつとの作戦はうまく行ったんだな?」
ミネーが優しい声色で尋ねる。
「うん、ヒナタは消えてしまったけど」
「何があったかよく分かんないけど、これで総力戦は俺たちの勝利ってことだな」
ミネーがスッキリした声で高らかに言う。
⭐️⭐️⭐️
ここまでは『スペースウォーリャーズ』をプレイしていた人間なら皆知っている。
ピースコンパスのハナサギとミネーがラスボスを撃破し、総力戦は幕を閉じた。
あくまでそういうこととして扱われてきた。
だが、まだ二人の闘いは終わっていなかった。
三人しか知らない最後の戦いが。
⭐️⭐️⭐️
いくら待っても終わる気配が無い。
「え?全滅させたよな?」
「レーダーに敵はいないし」
二人が困惑する。
⭐️⭐️⭐️
意識が戻った時、カガリはやられてしまったパイロット達と一緒にターミナルにいた。
『俺は確か.....そうか』
笑みが漏れる。
『ありがとう、ハナサギ君』
「映像が復旧したぞ!」
誰かが叫んだ。
画面の方を見ると、赫翼のエリアルアーマードスーツともう一機、金の翼のエリアルアーマードスーツが映っていた。
「ふふっ、どうなってるんだよ、君たちは」
思わず笑い出してしまった。
これで総力戦は終わりだろう。
だが一向に終了のアナウンスが始まらない。
「撃ち漏らしか?」
「バグじゃないか?」
皆が好き勝手言い出す。
妙な胸騒ぎがする。
「まだ、総力戦は終わっちゃいない。なんだこの胸騒ぎは』
また映像が途切れる。
⭐️⭐️⭐️
「とりあえず『ノアの方舟』に戻りながら撃ち漏らしたやつがいないか確認しよう」
「そうだな、油断してやられんなよ?」
「笑えないよ」
二機が戻ろうとした時、通信が入った。
その声は嫌と言うほど聞き慣れていた。
《いくら会わない機会が長かったからって、私の
ことを忘れるなんてひどいなぁー、ハナサギ君、ミネー君?》
「.....どういうことだ?」
ミネーが静かに尋ねる。
レーダーに敵が一機映っている。
《まさか君までシンギュラリティになっちゃうなんてね。ほんっと反吐がでる》
「アリス、お前が最後の敵なのか?」
《御名答、ハナサギ君。私シンギュラリティ嫌いなんだ、聞いたでしょ?新人類がどうとか》
「聞いたさ、それがどうしたって言うんだ」
《私にとってシンギュラリティって人間モドキにしか思えなくてさ、うーん、そのねー》
「.....無理してないか?」
《っ!うるさい!難しい芝居はもうやめた!私はシンギュラリティが大大大っ嫌い。あんた達を殺す理由はそれだけで十分でしょ?》
「それだけで裏切ったのか?」
《もちろん、公平性の観点から見てもシンギュラリティなんてチートでしかない。『スペースウォーリャーズ』には最初から仕様として、あれもまあまあクソだったけど、入ってたから私も我慢してた。でもね、『スペースウォーリャーズ2』にシンギュラリティが入ってくる可能性が出てきた。間抜け共がデータ引き継ぎなんかを景品にしやがったのよ》
アリスの声が熱を帯びる。
《君たちの機体データ全部『スペースウォーリャーズ2』にお引越し出来るの。シンギュラリティの能力もそのままよ?そんなの不公平、不愉快》
「お前がシンギュラリティに勝てないから?」
ミネーが言う。
《あぁ?プレイヤーの純粋な技量だけで行われる戦闘でも『スペースウォーリャーズ2』は成り立つからって話よ。みんな一からやり直すべきよ。シンギュラリティにビクビク怯えながら資材集めしたりするのの何が楽しいの?》
「ハナサギ、さっさと片付けるぞ。もう化け物の相手は懲り懲りだ」
ミネーが疲れたように呟く。
「心苦しいけど、やろう。全部終わらせよう!」
俺も気合いを入れる。
《あんた達に勝って証明してみせる、普通のプレイヤーがシンギュラリティに勝てること、シンギュラリティなんて要素、もう必要ないってこと!》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます