第42話 第十一回イベント-金色の希望

「うおおお!」



ミネーがエナジーブレードを振り下ろした。



エリアルシンギュラリティはスレスレで避けて反撃に転じる。



「やばい、やられる!」



カナがライフルを撃って援護する。



《単騎で勝てるわけないだろ、考えろ!》



《連携をとって確実に仕留めて!単騎での戦闘は禁止、近接格闘は最低でも三機で!》



ユカが付け加える。



「了解!」



生き残っているプレイヤー達も了解する。



エリアルシュトレインとエリアルバレルディ、そしてエリアルガスターがエリアルシンギュラリティに攻撃を仕掛ける。



エリアルシンギュラリティは数の優位などお構いなしに三機を圧倒する。



《こりゃカガリ本気出してるな》



カナが呟く。



《攻撃が先読みされてる.....?》



エレンが訝しむ。



「ちっ、三機でかかって軽くあしらわれるのかよ。俺の手におえる相手じゃねえ」



エリアルガスターがライフルを乱射しながらエリアルシンギュラリティから距離を取る。



《おい、逃げるな!》



カナがエリアルシンギュラリティの振り下ろしたエナジーブレードを受け止めて怒鳴る。



「一機だろうと三機だろうと勝てないもんは勝てないんだよ!」



ヨッシーは完全に戦意喪失してしまったようだ。



《ちっ、あのバカ!》



エレンが悪態をつく。



「ボクが代わりに入るよ!」



エリアルゴーストが踊り込んでエリアルシンギュラリティと打ち合う。



真後ろからエリアルバレルディが仕掛けるが看破されていたようで、碧色の光を帯びたファンネルがブレードを受け止めた。



《シールド付きのファンネルを予め射出して胴体にくっつけていたのか。意味わからん》



計十機のファンネルが碧色の軌跡を戦場に描く。



瞬く間に味方のアーマードスーツが消滅していく。



「避けろ!」



ミネーが叫ぶ。



避けられるものなら皆そうしていただろう。



理不尽な程に強化されたファンネルは恐ろしく正確な射撃で相手のコックピットを撃ち抜いていく。



「残ったのは俺たちだけかよ」



俺はレーダーを見てつぶやいた。



レーダーには俺とミネー、ヴァリュート、ヨッシー、エレン、カナ、グレイスだけが残っていた。



《大丈夫?みんな!》



アテナが心配したように尋ねかけてくる。



「アテナ!よく耐えたな!」



《ううん、『ノアの方舟』に退避した。ユカさんが危険だって》



「そうか、良かっ」



「集中して!ファンネルにやられるよ!」



今やファンネルは残ったプレイヤーを殲滅しようと飛び回っていた。



目の前にファンネルが踊り込んでくる。



エリアルヘロンを急上昇させる。



エリアルシンギュラリティがエリアルヘロンに追従する。



「俺が狙いか」



ファンネルからの攻撃を躱しながら、エリアルシンギュラリティの繰り出した重い一撃を受け止めた。



「あなたがラスボスなんて、すごいサプライズですね」



俺はそう言ってみたが、相手からはなんの反応もない。



『成り切ってるなぁ』



俺は妙なところで感心をした。



ファンネルが執拗に攻撃をしてくる。



「くっ、邪魔な.....!」



エリアルヘロンの振り下ろしたエナジーブレードがファンネルに直撃する。



一瞬、弾き返されたがそのまま押し込んでぶった斬った。



エリアルシンギュラリティがその隙をついてトドメをさしにかかる。



その時、エリアルバンシィからレールガンが発射され、エリアルシンギュラリティは回避を強制された。



レールガンが直撃しても大したダメージにはならないが、隙はエリアルシンギュラリティでも生まれてしまう。



そしてその隙を同じシンギュラリティであるハナサギにつかれることは致命傷だ。



《ファンネルを片付けたら直ぐそっちに援護しにいく!》



「ごめん、ファンネルの対応で精一杯で」



ヴァリュートが息を切らせながら言う。



《シンギュラリティでも無い有象無象に何ができる?》



聞き慣れない声が各々の脳に響く。



《カガリじゃないね、何者だ》



カナがファンネルの攻撃を避けながら問いかける。



《お前らが知る必要はない。我が息子を少々お借りしているよ》



「息子って、まさか」



《私はカガリの父、神狩豊だ》



《あたし達のことを有象無象と言ったね?後悔すんなよ》



カナが凄む。



《有象無象ではないか。現にファンネルごときに手間取っている。シンギュラリティはファンネルと私を同時に相手しているぞ》



エリアルガスターがファンネルの猛攻に沈んだ。



「悪い、あとは任せた!」



《エリアルガスターがやられた、まだファンネルは九機も残ってる》



カナが切羽詰まった声を出す。



『所詮旧人類に過ぎんのだ、お前たちは.....いや、一人おかしな奴がいる』



エリアルシンギュラリティが一機のアーマードスーツに注意を向ける。



そのアーマードスーツはファンネルの攻撃を避け、あまつさえ攻撃をヒットさせている。



他のアーマードスーツ、カガリの右腕であるエレンですら防戦一方なのにである。



「すごいねミネー、ちょっと余裕あるなら手伝ってよ」



ヴァリュートの軽口にミネーがそっけなく返す。



「アホか、他人を援護出来るほどの余裕はねぇよ。てかヨッシー以外誰もやられてなくないか?」



「ほんとだね、みんな少しだけど慣れて余裕が生まれてるね」



みんなハナサギほどではないが、反撃する余裕が生まれている。



『有象無象と侮ったのは計算違いか?いや所詮慣れたところで、もっと速度をあげればいいだけ』



ファンネルがより燦々と輝く。



《本気でいかせてもらうぞ》



エリアルシンギュラリティとエリアルヘロンが肉眼で捉えられないスピードで宇宙を駆け巡る。



「エリアルヘロン、もっと力を貸してくれ!」



おれの叫びに呼応するようにウィングの輝きが強まる。



二機が互角の戦いを繰り広げる。


《ここまでやるとは思わなんだ、エリアルヘロン》



豊の声には驚きがこもっていた。



「シンギュラリティがどうとか俺の知ったことじゃないし、運営が俺のことをどう思っていようと関係ない。今はあんたを倒す、それだけだ!」



エリアルヘロンとエリアルシンギュラリティがもつれあう。



《お前一人でか?私はこの世界(スペースウォーリャーズ)の総意だ!愚鈍な旧人類を導く新人類なのだ!》



「そんなもの、成ろうとして成るものじゃないだろ!」



《一から新しい世界を作るんだ、成ろうとしなければ何も始まらんよ!》



エリアルシンギュラリティがエリアルヘロンのエナジーブレードを弾き飛ばす。



「くっ」



エリアルヘロンが後退し、即座に武装をライフルに切り替える。



《当たらんよ、そんな豆鉄砲は!》



エリアルシンギュラリティが弾幕を潜り抜けて距離を詰めていく。



エリアルヘロンが予備のエナジーブレードを構える。



《これはフェイントです》



「分かった、って誰?」



突然、別の声が聞こえた。



エリアルシンギュラリティが制動をかけて止まる。



《な、なぜだ》



《ハローハナサギ》



「えーと、ヒナタだっけ」



俺は記憶を辿りながら尋ねた。



『そうです。うだうだ話している暇はありません。手短に』



ヒナタの声が脳に直接響く。



『カガリは現在彼の父である豊に乗っ取られている状態です。彼の精神は豊によって深層に沈められています』



「助ける方法は?」



『あなたがエリアルシンギュラリティを倒すことです。そうすれば私が豊を消滅させてカガリの精神を掬い上げることができます』



「分かった。大筋は変わんないね」



『はい、私も全力でサポートします』



「いや、俺よりミネー達を頼めないか?あいつらには最後まで一緒にいたいんだ」



『その必要はありません。あそこはミネー一人で充分です』



「本当に?」



『私が手放したシンギュラリティという要素は、あなたを経て成長したようです。まさか伝染するとは思いませんでしたが』



「え、それって」



ヒナタが言わんとしていることを理解した俺は無性に嬉しくなった。



「向こうはミネーに任せよう、俺たちはカガリさんを救うことに全力を!」



『了解』



《ええい、愚図共が!捻り潰してくれる!》



豊が怒気を爆発させる。



⭐️⭐️⭐️



『なんだこの感覚、今までに感じたことのない没入感.....!』



ファンネルの軌道が手に取るようにわかる。



《ミネーのあの動き、何処かで》



カナがファンネルを叩き落としたエリアルシュトレインをチラッと見ながら考える。



『さらにスピードの上がったファンネルに難なく対応して、確実な反撃を撃ち込む.....まさかな』



脳裏にふざけた希望が浮かび上がる。



エリアルシュトレインが真後ろからの射撃を避けた瞬間、カナは確信した。



《くく、くくく》



「あれ、カナがおかしくなっちゃった?」



ヴァリュートが突然笑い出したカナを気味悪がる。



《おせえんだよ、覚醒するのがよ》



ヴァリュートが笑いながら言う。



何かを察知したファンネルが一斉にエリアルシュトレインに目標を切り替える。



《ミネー、そっちに行ったぞ!》



エレンが忠告するが、それはミネーには届いていなかった。



『感覚がエリアルシュトレインと.....繋がっていく』



ミネーが目を閉じて深呼吸する。



ファンネルからレーザーが放たれる。



ミネーがゆっくり目を開く。



エリアルシュトレインのウィングが眩い金色に輝く。



目にも止まらぬ速度でレーザーを避ける。



「.....え?」



目と鼻の先にエリアルゴーストがいる。



「あ、危ないよー」



ヴァリュートが面食らって苦笑いする。



《そのウィングはハナサギと同じ.....》



グレイスが驚愕する。



「みんなは退避してくれ、ファンネルは俺が相手する!」



《何言って》



エリアルシュトレインがファンネルを迎撃しに向かう。



《任せようや、二人目のシンギュラリティに》



カナがそう言って『ノアの方舟』のいる方角へ飛び立つ。



《でも》



「ボク達じゃ足手纏いだよ」



ヴァリュートが諭すように言う。



《みんな、ミネーが一人で戦闘してるけど?》



ユカが困惑する。



《速度を見ればわかるでしょ?》



《え?速度って》



少しの間を置いて、



《この速度、まさかミネーも!?》



大きな悲鳴を上げる。



エリアルシュトレインがファンネルを一機真っ二つに切り裂いた。



『攻撃が通るようになった、これがカガリさんやハナサギがみていた世界.....』



ミネーが不敵な笑みを浮かべる。



金色の輝きは激しさを増し、鳳蝶のような力強く、美しい羽へと変貌した。



「うおおおおお!」



エリアルシュトレインがエナジーブレードを構えてファンネルに斬りかかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る