今日という日に
幸まる
いつか
「離さないで」と、
何度あなたに言ったでしょう。
何度あなたから言われたでしょう。
歩道のない道を端に寄って、まだおぼつかない足取りのあなたの手を引いて歩いた毎日。
あっちにもこっちにも、すぐに意識が飛んでしまうから、「絶対ママの手を離さないでね」と、何度も言い聞かせたね。
初めて一人で乗るブランコ。
「ここしっかり持ってね。落ちるから離しちゃダメよ」と言ったら、勝負に挑むみたいな顔で頷いてたね。
幼稚園のバスを待つ間、涙目になってぎゅうと握られた手。
先生に笑顔で挨拶された途端、私にしがみついて「離しちゃダメ離しちゃダメ」と泣いていたね。
自転車の補助輪を外した日。
「ママ! まだ離さないでね!」震える声でそう言ったのに。
一時間もすれば、すぐに力強くペダルを踏んで、一人で乗れるようになったよね。
あなたはいつの間にか、私よりも早く走るようになって、手を繋がなくても一人で走っていけるようになった。
あなたはいつの間にか、私と同じ位の身長になって、同じ高さの目線で笑うようになった。
いつの間にか、“ママ”から“お母さん”と呼び方も変えて。
いつの間にか、私と出掛けるよりも、お友達と出掛ける方が多くなった。
子供が大きくなるのはあっという間だ。
「離さないで」と、
いつ言わなくなったかな。
いつ言われなくなったかな。
きっとあなたは、私が付いていなくても、これからもどんどん成長するのだろう。
今はまだ近くにいるけれど、私から離れていく日も来るだろう。
それは少し寂しい想像だけれど、決して辛いものでもない。
ただ、なんだか不思議な感覚なだけ。
そしていつか、隣にあなたの愛する人が立った時、二人の手を一緒に握って、「この手をずっと離しては駄目よ」と言ってあげられるだろうか……。
そんな想像をしながら、卒業証書を受け取るあなたの立派な背中を見る今日。
母はとても誇らしい気分だよ。
今日の笑顔も、今日の涙も。
ずっと私の中に仕舞っておくね。
卒業おめでとう。
今日という日に 幸まる @karamitu
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