第8話 決着


道人先輩の猛攻を受け続けていたが、もう決着をつけてもいい気がしてきた。先輩の恋を応援してあげたいが俺も負けるわけにはいかない。俺は平穏な学校生活を送りたいのだ……。だがさっきの道人先輩の言葉。この学校が学徒の社交場だという話は初めて聞いた。いや……学校が学生にとって社交場であることはどこも同じだ。


そのうえで道人先輩はここが社交場であると強調したのだ。ここは国立英霊法術アトラ高校──。下手な進学校より偏差値が高く各界隈の御曹司や子女が通う学び舎だ。そんな学校なら交際や結婚を目的としたパートナー探しに生徒が精を出すこともなにも不思議じゃない。


俺は先輩がそう言った意味で言い、俺を励ましたのだと解釈した。


「道人先輩、そろそろけりつけましょうか……」


「それもそうだな……俺も全力で行く……」


道人先輩の体に漲る英気の量が増え攻撃の手の速度が上がった。右拳を突き出してきたところを体を左に避けて道人先輩の右腕を掴んだ俺は道人先輩の足にさっきまでではなかった速度で足をかけ、体勢を崩させ投げた。背中から床に倒れた道人先輩の上にかぶさり体で押さえ起き上がれないようにする。最後に手刀を先輩の首に添えた。


「俺の勝ちです」


『試合終了!勝者、夜霧英二!』


審判の声が響き道人先輩が体から力を抜き俺の腕を掴んでいた両手を投げ出した。


「俺の負けだな……」


そう言って道人先輩は笑った。立ち上がり先輩に手を貸す。俺の手を借り立ち上がった道人先輩は服に付いた埃を払い始めた。俺も軽く膝を払いながら無事勝ったことことに安心する。


「夜霧……君は英霊石を発動させていたか?君からは英気が一切感じられなかったが……」


「使ってませんからね」


「そうか……そこまで実力差があったのか……これは完敗だな、ははは!」


負けてここまで爽やかでいられる先輩のこと、尊敬します。俺なら負けたら半日は引きずるかもしれない……。いや……半日あれば忘れられるのかも……。すると先輩は真剣な顔になってなにか言いたそうにしていた。


「夜霧、俺は負けたが……十十木のことは諦める気はないぞ?」


「あっ、頑張ってください。応援しています」


「ふっ、先生としての余裕か……」


なにか悲しそうな顔で呟くが先輩の勘違いだ。俺はほんとに星奈を女性としてみていない。もし星奈を好きな人が居ても面倒だから助けはしないが応援はしてもいいと思っている。頑張れ先輩、都合のいいサンドバックにならないよう頑張ってください。


「夜霧、君とも仲良くなりたい。良かったらまた今度話そう」


「わかりました」


ふっと笑った先輩は自分の出てきた待機室のほうに向かった。俺も後ろを振り返り自分が来た道を引き返す。扉が開き待機室に入ると中は無人だった。俺は一息つき、ベンチに座る。ああ、どっと疲れた。精神的に……。はあ……。


◇ ◇ ◇


次の日の朝礼後──。俺は教室で襲われ?ていた……。


「ねえ君!連絡先教えてよ!」


「ずるい!ねえ、わたしにも教えてえよ!」


「昨日の戦いすごかったです……どうやってあそこまで強くなったんですか?」


女子の波に襲われていた。知らない女子たちが俺の元まで来て俺のプライベートな情報や連絡先を聞き出そうとしてくる。どうやらあの生徒会長──道人先輩を入学早々倒したことが原因らしく俺の話を聞きたいそうだ。中には部活動生もいて部活の勧誘をしてくる女子がいる。顔がいい女子を使って勧誘しようとするのは作戦か?


後ろでさっきまで一緒に話していた星奈と淳樹、龍心は俺を置いて離れたところに逃げた。あの薄情な奴ら覚えてろよ!中には人込みに紛れて俺に直接触ろうとしてくる者までいる。あっ!今誰かお尻触ったな!?ベルトから手を離せえ!?


「俺は部活に入らないし……連絡先も教えるつもりがありません!」


「「「と、言いつつう?」」」


「ほんとに教える気ねえよ!」


なんだこの一体感は?なんかこいつら慣れてる……。ノリとテンションがバラバラのようできちんと統一されている。きっとこいつらは訓練された者たちなのだろう。聞き込み、勧誘専門の猛者たち。俺はこいつらを追い払うのに数分用した。


追い払ったあと逃げていた友人たちが俺の下に集まってきた。


「英二君、モテモテだったね」


一番最初に逃げたバカ弟子が頭を撫でながらどこか困ったように言ってきた。


「全然嬉しくないけどな……それに好意を持って接してきてる人はゼロだし」


連絡先を教えたら何に使われるかわかったもんじゃない。あの人たちは普通の人の目をしてなかった。恐ろし過ぎる……。


「僕には地獄に見えたね。鬼に揉まれる英二を見るのは辛かったよ」


「そう言う淳樹もすぐに逃げたけどな……」


淳樹の道場に龍心がツッコミを入れる。ツッコミを入れる龍心も迷わず逃げていたけどな?


「道人先輩に勝ったのがここまで影響するなんてな……」


俺がそう嘆くとコクコクと三人が頷く。


「生徒会長の実力でこの学校七番目ってことは、どれだけ上の六人は強いんだろうな?」


龍心の疑問はもっともだが……。俺は少し疑念になったことがある。この学校、あんまりギスギスしてなくない?黒付きの俺が白付きの道人先輩に勝ったことにとやかく言う者は誰も現れなかった。どうやらあまり差別意識はあまりないようで……俺の思っていた「黒付きのくせに偉そうに!」的な展開はなかった。


「これで英二も黒付きなことを気にしなくてもいいな」


「そうだね、小心者の英二も見ていたかったけどね」


「英二君が小心者?」


星奈が考えられないという風に不思議そうに聞く。


「ああ、英二はこの学校がもっとギスギスした差別意識の高い学校だと思っていたらしい」


「わたしもそう思っていたけど?」


「違う違う……この学校で馬鹿にされるのはモテない男子や女子だけだろ?それを黒付きが馬鹿にされると勘違いしてたんだよ」


ええなにそれ?もしかしてこの学校での優等生=モテる人間。劣等生=モテない人間って認識なの?そういう理由で馬鹿にされるのかよ……。差別ってわからない……。


「まあ、僕たちはあまり気にしないようにしよう」


「そうだな、俺たちは女子に興味ないし、十十木も普通にモテそうだしな」


「わたしもあまり男子にそういう興味はないわ」


どうやら本当にそう言うことらしい。俺はなにかを勘違いしていたようだ。はあ、これなら本当に気にせず平穏な学校生活が送れるかもしれない。俺はそう期待した。これから待ち受ける星奈の受難が待っていることも知らずに……。


◇ ◇ ◇


【神視点】


僕は呆れた。いまだに勘違いしているようだこの男は……。


「君は世界でも数えるほどしかいないバシレウスって存在なんだけど……」


バシレウスとは英雄の血ではなく神の血を引く人間のことだ。彼らには英霊師に比べて強力な身体能力と能力を持っている。男が白付きではなく黒付きと判断されたのもそのためだ。


「イベントも完全スルーしてたしどうなることやら……」


僕は観賞を続ける。この世界の神として。

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俺の弟子が乙女ゲー世界で自由過ぎる件 黒夜 @fujiriu

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