第7話 社交場へようこそ!
待機室のベンチに座りながら壁に取り付けられているテレビを見ると誰かが戦っている映像が流れていた。一方は女子生徒、もう一方は男子生徒。二人は互いに持った剣を手に剣戟を繰り広げている。
『なぜなんですか!なぜわたしじゃダメなんですか!』←(イベント中☆)
『うるさい……僕はもう君を見れない……本当に大切な人に出会ったから!』←(イベント中☆)
どうやら映像から流れている会話を拾うと男のほうが好きな子できたから女のほうと婚約破棄したいということらしい。そして婚約破棄をしたくない女と揉めて決闘で話を付けようとなったみたいだ。女のほうは涙を堪えながら戦っている。男のほうはどこか苦しそうだが危なげなく戦っている。
これは男子生徒のほうが勝ちそうだな……。
数分後、男が地面に倒れた女の首に剣を突きつけたところで審判から試合終了の合図が出された。どうやら男の勝ちで決着らしい。しばらくして闘技場への入り口が開いたと思ったら映像に映っていた女子生徒が暗い顔で横を通り過ぎて行った。←(イベントォー!☆)。
映像が切り替わり向かいにある待機室が映し出され、そこには道人生徒会長の顔もあった。
『夜霧、見えているな?』
どうやら入場の合図を出しに連絡してきたらしい。
「はい、見えてますよ」
『闘技場に入ってくれ、すぐに試合開始だ』
「わかりました」
俺は立ち上がり軽く伸びをする。準備運動は大切だ。屈伸やストレッチをして扉が開くのを待っていると扉が開いた。入場していいよう。俺は英霊石を首にかけて闘技場に入場した。中に入ると半径百メートルはありそうな広い円状の開けた場所があった。ここが闘技場らしい。闘技場の周囲は観客席になっていて人が結構いる。あの中に龍心や淳樹が混ざっているのだろう。すると闘技場の一部から知る声が聞えた。
「英二くーん!頑張ってえ!」
声がするほうを見れば星奈が手を振りながら俺を応援していた。あのバカ、俺を巻き込んだことを少しは反省しろ。星奈の横には龍心と淳樹の姿もあった。二人とも俺に向けて軽く右手を上げている。……頑張れってことだろう。
向かいの入り口から道人生徒会長が現れ、軽く笑っていた。
「十十木からの応援か……羨ましい男だな、君は」
「そう言いつつ、俺よりも生徒会長のほうが人気があるようですけど」
さっきから「道人君頑張ってえ!」「そんな男倒しちゃえ!」などなど……たくさんの声援が道人生徒会長に送られている。特に女子による声援が中心で男子から恨まれそうなほどの勢いだ。
「俺のことは気軽に道人先輩とでも呼んでくれていいぞ」
「じゃあこれからはそう呼ばせてもらいます」
俺たちはお互い準備万端だ。いつでも試合を始められる。そのことをわかったのか道人先輩が俺から見て右側にある審判席に向かって頷く。たぶん審判に試合開始の合図の許可を出したのだろう。
『それではこれより、二年C組道人優斗対一年B組夜霧英二の試合を開始します』
審判の声の後に続きアラームがテンテンとなり三つ目のテンが終わるとひどく大きいい音がなった。どうやら試合開始らしい。
「ではいくぞ、夜霧英二!」
体に英気を漲らせた道人先輩が一気に俺との距離を詰め、足元に踏み込み手掌を放ってきた。俺は右手の甲でそれを横に流し反撃の蹴りを放つ。それを英気を物質化させた壁で受けた道人先輩が笑いながら左の拳を放っくる。
俺は左手でそれを受け止め力に沿って腕を引きながら逸らし思いっ切りその掴んだ左拳を後方に投げた。バランスを崩した道人先輩の首筋を狙って右手の手刀を放つとそれも英気の壁によって受け止められる。
俺は距離を取るため道人先輩が発生させた英気の壁ごと蹴り、道人先輩を後方に吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた道人先輩は空中でバランスを取り、なんどか地面に手を突きながらバク転した後止まった。
「俺の拳を難なく捌くか……さすが十十木が認めた男だな」
「道人先輩こそすごいじゃないですか……英気の物質化なんて一部の優等生でしか使えないはずなのに」
「ははは!俺はその一部の優等生だがな!」
そう言って再び距離を詰めてきた道人先輩は右拳を放つそぶりをしながら左足で蹴りつけてきた。それを後ろに下がることで避けた俺は次々と繰り出される道人先輩の拳を捌き続けた。
「どうした……捌くばかりで攻撃がないぞ?」
「俺はできるだけ体に力を入れないやり方で戦いたいんですよ。だから今は道人先輩に隙ができるのを待ってます」
「正直者だな君は」
道人先輩の拳を捌き蹴りを避けつつ俺はどうするか考える。この試合はなんでもありのルールだが道人先輩は『英霊鉱塊』の圧縮錬成によって造られる『英霊武器』は使ってこなかった。
『英霊武器』とはそれぞれ特殊な力を持った英雄の為の武器のようなものなのだが……この生徒会長の地位につくほどの男が所持していないと思えない。今も英気による強化での肉弾戦だが……どうやら最後までこのまま戦うみたいだ。
なら俺も自分の『英霊武器』は使わないでおこう。そう思った。まあそれよりも今の戦いである。
「道人先輩はどうしてそんなに星奈にこだわるんですか?」
別に他にもいい候補はいただろうに……。
「彼女に……惚れたからだ」
……はい?道人先輩は拳を放ちながらも続ける。
「彼女を生徒会に誘うのは俺の個人的な恋を叶えるための手段に過ぎない」
「……えっと、じゃあ先輩が言ってる星奈を生徒会に誘いたい理由って……」
「あれはただの建前、本音はただ一緒に居る時間が欲しいだけだ」
えっと……うん……もう負けてもいいかな?なんだかどっと体から力が抜けそうになってしまう。あれだけキリッとカッコいいと思わせてくれるような態度だったのに動機が恋とか……。それなら勝手にしろって言いたくなる。
「だから夜霧、お前には悪いが十十木は俺が頂く!」
「どうぞどうぞ」
「こらあー先生!わたしのためにやる気だせえ!」
どっかからか星奈の抗議の声が聞えた気がしたが無視だ。どうしようかな……もう負けてもいい気がしてきた。星奈も生徒会に入って揉まれればあの脳筋単細胞の性格も丸くなるかもしれない。それにこの道人先輩も星奈と関われば星奈に対する幻想も晴れるかもしれない。
星奈は確かに見た目は清純可憐な乙女だが、やるときはやる女。殴るときは殴る女だ。この生徒会長もいつか星奈に殴られるか怒鳴られるかなにか痛い目見るだろう。まあもしかしたら二人が相性がいいという可能性もあるが……。
「先輩はMですか?」
「いや、普通だが……」
「そっすか……」
「なぜ可哀そうな目で見る!?」
そっかー、Mじゃないなら難しいかもなあ。俺も小春も男に容赦ない星奈には散々悩まされたからなあ。仲間が増えるのは悪い気がしない。
「まあいい、夜霧、君はまだ本気を出していないようだが……そろそろ本気でこい」
「……そうですねえ」
「俺を倒せば箔がつくぞ?新聞部による調査で俺はこの学校で七番目に強いらしいからな」
「……七番目、だとっ」
「俺の実力に驚いたか?だろうな、だが俺もまだ本気を出してないがな」
な、なな番目の奴を倒しても意味ねえ。そう思ってため息つきたくなるのを堪えた。生徒会長で七番目の実力って、考えていなかった。生徒会長がこの学校の実力トップと言う考えは確かに固定観念に縛られていた俺が悪い。だがそれでも七番目?俺、この人倒す必要ある?
だが一方ここで負ければ俺の実力は七番目以下ということになる。それは避けたい現実だ。この学校のヤンキーたちが七番目以下の雑魚に何をするかわからない。俺は穏やかな学校生活を送りたいのだ。それを実現させるためにもここで負けにはいかないだろう。
俺は一端先輩距離をとった。すると先輩が両手を広げ語った。
「ここは若男と乙女。愛と友情を求める若者たちの青春を送るには持って来いの社交場ともいえる学校。アトラ高校だ!ようこそ若者たちの社交場へ!」
ちょっと待ってくれ……俺の知ってる学校じゃない!俺は知識にある学校のイメージと違いすぎる話に驚き、龍心の言葉を思い出した。生徒会長が語る言葉には謎の説得力があった。
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