第6話 決闘の誘い


入学式から三日後。朝のホームルームで生徒全員に片手に収まる巾着袋がそれぞれ配られた。担任の寺島洋子先生から、中には組章が入っていると説明があった。組章の色が白だったら、優等生である英雄生アークの証。逆に黒い組章だったら劣等生である一般生ノーマルの証。この判別基準は入試合格後に行われた血液検査による結果だ。


俺の実力は星奈以上だから、問題なく白い組章だろう。そう思って中を開ければ……。


「どゆこと?」


俺に配られた巾着袋の中身は黒の組章だった。あれれ?おっかしいなあ?どう見ても黒い組章なんですけど……。


呆然としていると自由時間になった龍心が近づいてくる気配がした。


「英二、組章の色はどうだった?まっ、お前なら問題なく白……って、どうした?」


「龍心、俺……黒だった」


「はっ、へっ?嘘だろ?お前の実力で?まあ、待て落ち着け英二、ちょっと先生に聞いてくるから!」


そう言って龍心はホームルームが終わると教室を出て行った寺島先生を追いかけた。


「マジでどうなってるんだ?」


いや、別に黒の組章の生徒が珍しいわけじゃない。英雄の血を確実に引いていても白に選ばれない生徒はいる。だが決まってその生徒には何かしら実力に問題があるはずなんだ……。さっきの龍心の様子を見る限り龍心は白なのだろう。そして龍心より問題なく強い俺が黒……。なにかの手違いじゃないか?


何度見返しても俺の組章は黒だ……。すると龍心が戻ってきた。


「……先生は間違いなく英二は黒だってよ」


「そうか……」


どうやら俺はこの実力主義の学校で劣等生扱いらしい。正直不安だ。小説世界では弱者は強者に絶対従わなければならないような設定だった。今後人と関わることで何かもめ事が起こる予感しかしない。


「まあ気にするな英二、皆、そこまで鬼じゃない。組章が黒ってぐらいじゃ頭の良い奴はなにも言わないさ」


小説世界では基本主要キャラ以外は全員バカだったんだけど……。龍心の言葉で益々不安になる。


「でも、黒だと白の生徒にパシリに使われないか?」


「ないだろ」


「この学校の底辺が!とか言われて頭を踏みつけられたり……」


「そんな生徒、普通に風紀委員の処罰対象だろう」


「ゴミクズ野郎って言われて裸にむかれて校舎に磔にされたり……」


「それやった奴、退学だから」


……そんなはずがない!だってここは実力主義の弱肉強食のいわゆるヤンキーみたいな奴らの溜まりに溜まった世界だろ?皆がそんなに優しいわけがないんだ!


「龍心、ここはそんなに甘い場所じゃないっ」


「いや……めっちゃ優しくて校風もいい綺麗な学校じゃないか……」


「そんなわけない!」


「おい!お前なんかおかしいぞ?お前この学校のパンフレットとかちゃんと読んだか?」


「……読んでない」


どうせ面白くもなんともないだろうと思って読む前にどっかに失くした。


「いいか英二、確かに性格の悪い奴もいるかもしれない……けど、ほとんどの奴はいい奴ばかりだ」


な、ん、だ、と……。俺は龍心の心配する、そして俺を安心させようとする声と顔を信じるか迷った。


◇ ◇ ◇


全学年が使用できる食堂で学食を食べる。俺の隣には淳樹が座り、机を挟んだ向かいに龍心が座っている。俺はかつ丼を食べながら淳樹に聞く。


「淳樹は組章の色どっちだった?」


「うん?普通に白だったよ」


「……そうか」


「まあ、まあ、そう落ち込むなよ英二。前向いて行こうぜ」


そう龍心が励ましてくれるがこの先不安だ。俺の様子を見てなにか察したように淳樹が俺を見つめる。


「もしかしてだけど……英二の実力で黒だったとか?」


「そのまさかだ、淳樹。俺も英二の組章を見たときは驚いた」


「そう言うこともあるんだねえ……英二、気にすることないよ。英二には間違いなく実力があるんだから」


「いや、別に実力を認めて欲しいわけじゃないんだけど……」


別に実力を下に見られることはいい。好きなだけ笑ってればいいさ。だが笑うだけじゃなく小説世界ではいちいち白付きが黒付きに絡んでくるんだ。なんだろうな。ちょっかいを掛けないと気が済まないのだろうかと呆れるほど絡んでくるんだ。それが心配で心配で……。


「英二って意外と小心者だったんだね」


「だな、実戦ではあれだけキリっとしてるのにな」


二人がそれぞれの定食を食べながらそう呆れていた。二人の呆れた視線に辛くなる。俺は真剣に悩んでいるのにっ。


「少しいいか?」


すると俺達の前にカッコいい爽やかイケメンが現れた。誰だコイツ。


「なんですか?」


代表して俺が聞く。イケメンの視線が俺に固定された。


「君が夜霧英二だな」


「そうですけど……どこかで会ったことありましたっけ?」


「いや初対面だ。悪かった。先に自己紹介だな……俺は生徒会長の道人優斗だ」


「生徒会長が俺になんの用ですか?」


生徒会長に目を付けられることをした覚えはないが……。


「十十木星奈という生徒を生徒会に誘おうと彼女に接触したんだが……」


どうやらこの生徒会長は星奈を生徒会の新メンバーとして誘いたかったらしい。理由はその人望を集めそうな見た目と実力を買ったそうだ。だが生徒会に星奈は興味を示さなかったらしい。それでも何とか生徒会に勧誘し続けたらしいのだが……。


「そしたら彼女が、先生に決闘で勝ったら、生徒会に入ると言質を取ってな」


あの自称バカ弟子なに言ってんだ……。あの子は何でも決闘で片付けないと気が済まないのか?


「先生が誰なのか聞いたら君がそうだと聞いた。──夜霧英二、俺といざ尋常に勝負を」


「いやです」


イケメンが言い切る前に答える。


「……ふ、また振られてしまったな」


すごく残念そうな顔をするイケメンだな……。盛大一大の告白を断ったわけじゃないのに、なんだかすごく悪いことをした気分になるじゃないか……。それでも諦め切れないのかイケメン、基道人生徒会長は立ち去らない。それどころかバット九十度に頭を下げ始めた。


「頼む夜霧、俺は彼女を諦め切れない」


まるで星奈を自分の彼女にしたくて必死な男子って感じだな……。俺はどうしたものか迷う。ここまでして星奈を求める気持ちはわかるようでわからない。星奈の容姿は間違いなくこの栄えあるアトラ高校の生徒会に相応しいだろう。だがあの猪突猛進の直情的過ぎる性格はどうにかしないとあとで後悔することになるのはこの人だろう。


「英二、頼みを聞いてやってもいいんじゃねえか?」


龍心が持っている箸をブラブラさせながらそう言う。


「これはいい機会かもよ?ここで生徒会長を倒しておけば英二の不安も少しは解消されるでしょ」


確かに淳樹の意見には賛成だ。ここで生徒会長を倒せば実力主義のこの学校ではいい看板になるだろう。生徒会長は間違いなくこの学校でも有数の強キャラ。実力ナンバーワンとも言ってもいい。


それならこの決闘を受けることにも意味がある。少なくともバカな奴らでもこいつには手を出さないほうがいいと考えてくれるだろう。それに友人の意見も大切だ。生徒会長の熱いお願いもある。ここは決闘の勝敗云々はともかく、男として勝負を受けてもいいかもしれない。


俺は道人生徒会長と向き合った。


「その決闘、受けます」


俺がそう言うとパッと顔をあげて輝かせる。周囲の一部の女子が「キャアー」と叫ぶ。さすが生徒会長、人気者だ。


「じゃあ早速、闘技場に行こうか」


「はい」


俺は食べ終えた空の丼ぶりを食堂の窓口に返却してから、生徒会長の後について行く。淳樹と龍心はあとで観客席に行くと言っていた。どうやら急いで食べて応援に来てくれるらしい。


「それにしても……夜霧は黒組なんだな」


俺の組章を見た道人生徒会長が意外そうな声で言う。確かに星奈の実力を知ったうえで先生が居ると言われたら、俺が黒付きであることが意外だろう。


「はい、意外ですか?」


「いや、黒組でも強い者はたまにいる。十十木が夜霧のことを先生と言ったとき、全幅の信頼を感じた。夜霧はさぞ強いのだろうな」


「いえ、そんなことは……」


「ははは……謙遜するな、まあ夜霧がいくら強かろうと負ける気はないがな」


そう言って笑う道人生徒会長の顔には自信があった。生徒会長たるものこのぐらいの自信は必要だろう。正直、俺も負ける気はない。星奈が生徒会に入る入らない件はどうでもいいが、俺もこの学校で生きていくためにも生徒会長にはここで負けてもらう。


勝つ自信は正直ある。というか自信しかない。俺はこの学校に入学して気づいたことだが、俺より英気が多い人間は見当たらなかった。まだ見つけたことがないだけかもしれないが、この生徒会長を観察してもかなりの達人であることはわかるが……負けるビジョンが思い浮かばなかった。それに俺のほうが英気が多い。


勝因は英気の総量で決まるものではないが、英気の量が多いほどその者がどれだけ英気を溜め鍛えてきたかがわかる。たまに英気の総量をごまかすことに長けた者たちがいる。騙し操り狩ることを得意とする忍びの一族が秘伝として英気のごまかし方を知っている。


よく漫画とかで実は魔力総量が敵より多かった!的な展開もあるが俺には必要ない。俺は別に敵を騙したいわけじゃないからだ。すると闘技場の待機室に着いた。


「ここで少し待っていてくれ。俺は反対側の待機室に向かう。闘技場の入り口が開いたら中に入って試合開始だ」


「わかりました」


「それで試合のルールだが……」


「なんでもありでいいですよ」


「そうか、じゃあ俺は行くな」


そう言ってこの待機室から出て行った。着いた途端戦えるということはどうやら道人生徒会長は決闘の誘いを受諾される前提で話しかけて来たみたいだ。すぐに決闘が始められるということは最初から準備はしていたのだろう。


それにしてもこの戦いをどうするか考える。俺は両親の意向で能力の使用制限を受けている。俺の能力はどちらも使い方によっては強力すぎて危険なのだ。俺は能力の一つ『未来投影』能力を発動させる。


イメージとしては俺は自宅に置いてある自分の英霊石を取りに行きここの待機室に戻ってきたと仮定し現実に投影する。すると俺の右手の中には黄色の英霊石がはめ込まれたネックレスがあった。


「まあ正直、英霊石は必要ない気もするけど……」


試合……どう進めるかな。

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