もう離さないからねっ


 僕はいつものように、廊下を一人で歩いていると、前から凛とした姿勢で風紀委員の相楽さんが歩いてきた。


 あの日から、僕は隠れるのをやめた。


「ちょっと待ちなさい。そこの君。ネクタイが緩すぎ!」

「ちょっ……相楽さん!? また!?」


「また!? じゃないでしょ? 校則違反よっ」

「すみません」


 相楽さんは怒った様にそう言いながらも、ネクタイをしっかりと締めつつグイっと引き寄せ、僕の耳元でこっそりとこう囁いた。


「もう離さないからねっ」


 この時の僕の顔はきっと真っ赤だっただろう。


 彼女は、開け放った廊下の窓から吹き込む風につややかな長髪をさっとたなびかせ、再び颯爽と歩き出すと、彼女を恐れる生徒達は壁際へと後ずさっていった。


 しかし、その凛とした後ろ姿は、以前よりとても楽し気に見えて、僕の顔も自然とほころんでしまう。


 相楽さんは美しくちょっと怖いが、僕だけが相楽さんのかわいい一面を知っている。



 僕と相楽さんが付き合っていることは、まだ誰にもバレてはいないはずだ。




 完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風紀委員の相楽さんは僕を離してくれない。 八万 @itou999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ