風紀委員の相楽さんは僕を離してくれない。
八万
部室で
「はぁ……疲れた」
夕暮れ時、僕はへとへとになった身体にむち打ち、サッカー部の部室へと戻ってきた。
僕は高校二年生で、県ではそこそこ強いサッカー部に所属している。
今日は他校との練習試合だったが、地区大会のレギュラー選考も兼ねた重要な試合だった。
女子も少なからず観に来ていて、その中に学校一美しく且つキツイと噂の風紀委員である相楽さんが居たのは意外だったが。
彼女は違うクラスの二年生なのだが、廊下等で擦れ違うたびに、ネクタイが曲がっているとか、寝癖がとか注意してくるから正直苦手で、彼女を見かけると僕はさっと物陰に隠れるようになっていた。
そんなことは試合が始まるとすぐに忘れ、レギュラー獲得の為、ストライカーの僕は点を取ってやろうと意気込んで何度もシュートをするが、全部外れていいところが全く無かった。
これじゃあ、ストライカーというより、すっとこどっこいだ。
結果、サッカー部顧問から校庭20周を言い渡されて、帰るのが遅くなってしまった。
これは、仕方ない。いささか強引に点を取りに行った僕が悪いし、チームにも迷惑をかけてしまったから。
レギュラーはもう無理か……。
「はぁ……」
僕は深く溜息をつきながら、力なくロッカーの扉をゆっくりと開けた。
「……」
え? えぇと?
「さ、相楽さ……ん? え、えぇぇぇっ! むぐぐっ」
「しっ、静かに……」
なんで僕のロッカーの中に風紀委員の相楽さんが!?
彼女は僕の口を冷たい手で塞ぎ、怒った様に言う。
わけが分からないが、喋れないのでコクコクと頷くと、ようやく口を塞いだ手を離してくれた。
「ぷはぁぁぁっ……な、なんで相楽さんが中に……」
「今は何も話さないで……」
彼女に疑問を呈するも、彼女は首だけ出して素早くキョロキョロと左右を確認すると、いきなり僕の腕を強く引っ張り、ロッカーの中に入れられてしまった。
当然、中は相楽さんと二人きり。
扉を閉じられてしまったので、中は暗くて何も見えない。
相楽さんの熱い息が、ユニフォーム越しに僕の胸元に
どうしてこうなった!?
心臓が早鐘を打ち、息を抑えようと思っても勝手に息が荒くなってしまう。
僕はどうしていいか分からず、ただ硬直して立っていることしかできなかった。
「汗臭い……」
彼女がクンクンと僕の匂いを嗅いでいるのか、僕の腰に腕を回しながら言う。
それが僕には妙に恥ずかしく、自分の顔が熱くなるのを感じる。
僕は頭の中が混乱し、ひとまず相楽さんを引き剥がそうと腕を引き上げると、はからずして彼女の胸を
「きゃ」
「ご、ご、ごめんっ」
焦ってすぐに手をどかそうとすると、彼女に手首を掴まれてしまう。
「離さないで……」
暗闇に目が慣れてくると、彼女が僕の顔を見上げているのが分かった。
その瞳は暗い中でも潤んで見えた。
「どうして……こんな」
「はなさないで……」
そう言うと、彼女は僕の胸に顔をそっと押しつけ、しばらく黙ってしまった。
彼女のわずかに震える顔から伝わる体温が心地よく感じる。
そして相楽さんは、ぽつりぽつりと話し出す。
「……ずっと……見てたんだ……」
「入学式の時からずっと……」
「君のこと」
「だから……だから」
「わたしから……逃げないで」
「おねがい……」
彼女のかすれるような声は震えていた。
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