ハナサナイデの呪文
「早苗ちゃん、どうしたの?」
次の日は土曜日で学校はお休みだったけど、早く真相を確かめたいあたしは早速、花ちゃんを近所の公園に呼び出した。
あたしたちはブランコに乗って、キコキコ漕ぎながら、話をする。
「花ちゃんは、あたしの親友だよね?」
「もちろん、親友だよ?」
「じゃあ……あたしの質問、正直に答えてくれる?」
「……うん、どうしたの?」
あたしはブランコを一旦止めて、ついにあの質問を口に出す。
「花ちゃんって……魔法が使えるよね?」
花ちゃんはそれを聞いて、あたしと同じくブランコを一旦止める。それからあたしの目をじっと見つめた後で、一言。
「……これからする話、他の人には絶対に話さないでね」
花ちゃんがいつもの口癖、「他の人には話さないでね」を口に出した。それも今回は「絶対に」付きで。
それを聞いたあたしは、ついに秘密を明かしてくれるのか、とドキドキしながらも、大きく頷く。
「……もちろんだよ!」
花ちゃんはあたしの言葉を聞いて頷いた後、話しだす。
「私……『ハナサナイデ』の呪文を使えるの」
思ってもみなかったことを言われたあたしは、呆気に取られたように口を開いてしまう。
「ハ、ハナサナイデ……? って……?」
「えっと、そのままの意味。その言葉を言うと、それを聞いた相手がその言葉の意味の通りになるんだ」
ああなるほど、「話さないで」か。ってことは、やっぱり――――!
その言葉の意味から確信を持ったあたしは、これまでの出来事の答え合わせをしてみる。
「じゃあ、終わりの会とかクラスがうるさい時に、周りを静かにできるのも……?」
「うん、呪文使ってるから。そうでもしなきゃ私、大勢の前で発言とかできないし」
「や、やっぱり……! すごーい! じゃあ花ちゃんって、やっぱり魔法使いなんだ!」
「そんなすごいものじゃないよ。あたし、まだその呪文しか使えないし」
「ええっ、そうなの?」
「うん……私のお母さんが言ってたけど、『ハナサナイデ』の呪文は私の名前と相性がいい呪文みたい。だからこれを真っ先に覚えられたみたいなの」
「名前……そんなの関係あるんだ……?」
なんでだろう、出だしが同じ「ハナ」だからかな。それとも名前に「静」って、静かにする意味が入ってるからなのかな……?
「それに『ハナサナイデ』の呪文って万能じゃなくて。みんなに聞こえるように言うと、先生まで黙っちゃったりするし」
「ああ~確かに、それは困るね」
なるほどね、花ちゃんがクラスメイトに注意した時、先生もなぜか一緒になって黙ってたのはそのせいだったのか。
「喋らないで、とか言い方変えても効かないし。『ハナサナイデ』が正しく伝わる言い方を考えないといけなくて結構頭つかうし。なかなか使いづらいところもあるんだよ」
花ちゃんはそう言うけれど、魔法が使えるなんてやっぱりすごい。あたしはこれまで以上にキラキラした目で花ちゃんを見つめてしまった。
そうしてあたしと花ちゃんは秘密を共有し合うことになり、ますます親友の絆が強まった。
自分の親友が魔法使いだなんて、ホントなら誰かに言いたくてたまらない秘密なんだろうけど、この秘密を聞いた時に「ハナサナイデ」の呪文をかけられてしまったあたしは、誰かに言いたくなるような危険もなく、花ちゃんの秘密を胸にしまったまま日々を過ごしていた。
そんな中で起きたある日の出来事を、最後に一つだけ。
その日は席替えだった。あたしと花ちゃんは、二人の席が近くになるように、と強く願っていた。
すると、驚いたことにその願いが叶ったのか、なんとあたしたちは、すぐ隣同士――前と後ろの席になったのだ!
これは偶然にしても、幸運すぎる! さては花ちゃん、「席替えで好きな子と近くになれる魔法」でも覚えたのかな⁉
そう思ったあたしが休み時間、誰にも聞かれないように注意しながら花ちゃんにこっそり問い詰めると、花ちゃんは首を横に振る。
「そんなの覚えてないよ?」
「ええ⁉ じゃあこれ、偶然……?」
花ちゃんはかすかににやりと笑って、あたしに言う。
「私はただ、『早苗ちゃんと席を離さないで』って唱えただけ」
「なんだー。そっか……って、あれ?」
花ちゃん……今、「ハナサナイデ」の呪文、唱えなかった?
そうしてあたしは、「ハナサナイデ」の呪文の、もう一つの効果を知ることになったのだった。
『ハナサナイデの呪文』 完
ハナサナイデの呪文【KAC2024 5回目】 ほのなえ @honokanaeko
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