ハナサナイデの呪文【KAC2024 5回目】

ほのなえ

花ちゃんは魔法使い⁉

 クラスメイトであたしの親友の花ちゃん――花岡静はなおかしずかちゃんは、魔法が使える。


 そう確信したのは、昨日のことだった。



 これまでにも何度か兆しみたいなものはあった気がする。だってうちのクラス……何というか結構荒れてて、みんな先生の言う事なんてなかなか聞かないのに、花ちゃんの言う事だけは聞くんだもん。


「みんな好き勝手に話さないで、先生の話聞こうよ。そうしないと、終わりの会が終わらなくてなかなか帰れないよ?」


 四月のある日の終わりの会の時間。まだ始まりたてのクラスで、みんながガヤガヤお喋りしてる中で……たった一人立ち上がって、よく通る声で言うんだもん。初めは驚いたよ。

 だって、あたしにはそんな勇気ない。そんなこと言ったら、「優等生ぶりやがって」なんて思われて、いじめられちゃうのも時間の問題。

 それでも花ちゃんは堂々と言えるんだから、やっぱりすごい。


 そしてもう一つ驚いたことが、その言葉を聞いたみんなが一斉に、ぴたりとお喋りを止めたことだ。まるで魔法みたい。あたしが言っても普通に無視されるだろうに、なんでだろう。花ちゃんの言葉に先生も驚いてたせいか、しばらくの間何にも言わなくて――その時間の分、結局終わりの会は長引いてしまったけれど。


「花岡さん、すごいね。あんな風に堂々とみんなに注意できるなんて。それにいつもうるさいうちのクラスがあんなに静かになるなんて、びっくりだよ」


 その日の終わりの会が終わった後。あたしは帰ろうとする花ちゃんを追いかけて、思ったことを伝えてみた。花ちゃんは少し驚いたような表情をした後、私に言う。

「あ、ありがとう。でも……すごくなんかないよ。たまたまみんなが静かにしてくれただけだよ」

 照れくさそうに謙遜する花ちゃんの姿にいい子だなって思って、あたしは思わず言ってしまう。

「もし注意したせいでクラスの誰かに何か嫌な事言われたりしても、あたしだけは花岡さんの味方だからね!」

 それを聞いた花ちゃんの目がきらきらと光る。

「あ、ありがとう……! えっと……」

早苗さなえだよ。良かったら下の名前で呼んでね!」

 そう言ったあたしは花ちゃんと友だちになりたくて、その日から花ちゃんと一緒に帰ることに決めた。



 それからあたしと花ちゃんはめでたく親友になり、呼び名も「花岡さん」から「花ちゃん」になったんだけど(「静ちゃん」よりそっちの方がいいみたいだったから)。


 花ちゃんと仲良くなってからというもの、花ちゃんに対する一つの疑惑が出てきた。

 それは「花ちゃんは魔法使いなんじゃないか説」である。


 だって、花ちゃんって普段、クラスではおとなしくて声も小さい方なのに、クラスがうるさくなった時に毎回、あんな風に堂々と注意できるなんて、なんだか不思議だと思ってたよ。

 それに、「もし注意したせいでクラスの誰かに何か嫌な事言われたりしても、あたしだけは花岡さんの味方だからね!」って前に宣言したものの、あたしは本当にそうなったら味方してあげないと、って内心はドキドキだったのに――――実際はそんなこと、全く起こらなかった。

 それどころか、花ちゃんに注意されたことも覚えてないみたい。隣の席の男子にそれとなく聞いてみたけど、「そんなことあったっけ?」って感じの反応だった。ぼんやりした感じの男子ではあるけど、その時寝てたわけでもないのに……次の日に覚えてないなんてこと、あるのかなぁ。


 それに、花ちゃんの口癖でよく「他の人には話さないでね」っていうのがある。そう言った後で、あたしだけに内緒話をしてくれることが結構あるんだけど。

 でも実はあたし、そんなこと言われたら逆に、誰かに話したくなってうずうずするタイプだったりする。そりゃあ同じ学校の子に言うのがまずいってことはわかってるけど。でもお母さんとか中学生のお姉ちゃんになら、学校のこと話しても簡単には秘密が漏れないからって――――これまでは、二人には誰かの内緒話を好き勝手に話していたりした。

 そんな私でも、なぜだか花ちゃんの内緒話についてはどうも誰かに言う気になれなくて、今でも全部胸にしまってある。

 親友の花ちゃんが特別大事だからなのかな、って思ってこれまでは納得してたけど。今思えばやっぱりおかしい。



 そんなことを思ってたら、昨日、「花ちゃんは魔法使いなんじゃないか説」を決定づけるようなことがあった。

 あたしは偶然、ある話をテレビで見たのだ。それは、自分の放った言葉が、現実で起こる出来事に高い確率で影響する――そんな人がいるって話だった。その人は、もしかしたら何か特別な力を持っているんじゃないか、なんて言われてた。


 うちのお父さんはそれを見ても半信半疑で、うさんくさいとか言って、途中でチャンネルを野球に変えてたけど――――あたしはその話を聞いてピンときてしまった。

 もしかしたら、花ちゃんの放つ言葉にも、他の誰かに命令させるような魔力が備わっていたりするんじゃないかな。花ちゃんは自分が魔法を使えるって知っているから、堂々とクラス全員の前で注意したりすることも簡単なのかも。あたしだってそんな力持ってたら、たぶん注意だってできると思うし。


 そんなわけで、昨日見たテレビの内容と、これまでの出来事から考えて――――あたしは「花ちゃんは魔法が使えるに違いない」と確信したのだった。


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