第3話

「どうだい?ソフィ。進捗はいい感じかい?」

 白衣を着た髭面の男がそう言いながらラボに入って来た。

「あら、アラン。気が利くわね、ありがとう」

 ソフィと呼ばれた女はアランが両手に一つずつ持っていた紙コップのコーヒーの一つを、椅子に座ったまま受け取ってそう言った。


「キミの世界の人口は現在どのくらいなんだい?」

「そうね。現在70億人くらいかしら」

「ほぉ、順調だな」

「そうね、彼らは徐々に知性を高めているわ」

「ふむ……。その70億人は全てオートで生まれているものなのかい?」

「いえ、私のバーチャルアースには、こんなプログラムを組んでみたの。ヒロイックソウルシステムって私は呼んでいるわ」

 ソフィはそう言いながら操作端末を触り、表示された画面をアランに見るように促す。アランはその画面に顔を近づけ、その内容を咀嚼するように目を走らせる。

「ふむ。なるほど。自動生成される魂とは別に、ソフィが成長の方向性に直接干渉出来る魂がある、と。ふむふむ、誕生前にそのチュートリアルを受けた魂は、才能に恵まれた人間として生まれる、と。そして……、うん? ほぉ。そのギフテッドは、才能に恵まれると同時に、誰もが持ち得る当たり前の個性を持てないようになっている……と。ふぅむ。面白いが残酷だな」

 アランは鼻から大きく息を吐きだしながらそう言った。

「そう?残酷かしら? 才能に恵まれた人間が一般人の当たり前の幸せも手に入れられる方が残酷じゃない?」

「ま、確かにな」

「でしょ?」

「それで、そのソフィが直接介入出来るシステムはこの先どうするんだい?」

「私が担当しているこのバーチャルアースには、神もプログラムしてあるわ。言わば、私の下位互換としてのシステムね。そのシステムは、私がこの世界の人間に干渉する様を常に学習しているの。どんどん私のコピーになっていく神システムがどうなっていくのかを見るのも私の研究の一つよ。そして、私が直接干渉した魂がどんなヒーローになっていくのかを見るのも研究対象ね」

 ソフィはコーヒーの香りを嗅ぎながら言う。

「ヒーローか……。ヒーローね……。しかし、ヒーローがヒーロー足りえるのはヒーローが望まれる状況があってこそじゃないのか?」

 アランは疑問をソフィにぶつけた。

「うふふ。流石はアラン。よく分かってるわね。もちろんあるわよ、ヒロイックソウルシステムと対になるヴィランソウルシステムと、そして、疫病と災害で介入出来るシステムが」

「なるほどな。キミの世界の人間は大変だ。恒久的な平和が中々無さそうだ」

「そうね。でも、バーチャルアースの中に必要なのは恒久的な平和じゃないじゃない。人間の人間たる由縁を解析して、私たちの現実世界にフィードバックする事でしょ? 所詮はコンピュータの中のデータに過ぎない世界と命よ」

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