忘れられた英雄の詩

オドマン★コマ / ルシエド

その石版は、古ぼけていて、ところどころ欠けていて、苔むしていて、少しばかり生臭く、冬でもほんのりと温かかった。

 聞くな、語るな、話すな。

 人の口に上げずとも、この石版に在ればいい。

 真実は秘密の下で良い。


 1なる勇者、フェニキア。

  絶対なる不屈の勇者。

  光の申し子。

  彼より全ては始まった。


 1なる勇者は剣を掲げ、22の騎士を集わせる。


 牛飼いアレフ。その剛力に並ぶ者無し。


 妖精騎士ベト。妖精の家、妖精の耳。全ての秘密を盗み聞く。


 盗賊ギメル、砂漠より来たれり。盗み、売り、分け与える、貧しき者の味方なり。


 門の守護騎士、輝きのダレト。最も信用適う盾、最も信用ならぬ間男。


 声美しきは歌姫へー。誰にも愛され、誰をも癒やす、ツルギの歌姫、窓辺の歌姫。


 不死不傷の鈎騎士こそワウ。常に怪我無く、常に毛も無し。


 武器に愛されし我らがザイン。彼こそが我らの心臓なりて。


 柵と安堵の騎士ヘート。人々に寄り添う、穏やかな守り。


 テトこそ、駆ける車輪の騎士。全ての戦車の生みの親。


 手先の妙技、道化騎士ヨド。玩具、手品、遊戯の祖。誰より多くの子らを笑わせた。


 命を守り、命を救う、医の騎士カフ。最も多くの命を繋ぎ、最も多くの命を救えぬ、気高き後悔抱く医師。


 最も強きはラメドなり。見よその力。知れ身の程を。全てを潰すは、ただの棒突き。


 掴み所無き水はメム。流し流される騎士。ゆめ忘れることなかれ。メムを操る時、メムに操られていることを。


 海の覇者、ヌン。怪物を超えし怪物。造船の祖、軍艦の祖なり。海を手にした、水平線の掌握者。


 伝統の守護師と呼ばれしサメク。この世で唯一、実益在る生贄を司りし女。


 勇者の瞳、気高きアイン。全てを見通し、全てを見張る。


 我らが使者、我らが料理人、即ちペー。喰らい、騙るは、達者なる口。


 問いかけるならばツァデに聞け。真理は全て其処に在る。


 鉄に愛されしコフの鉄細工。願わくば、平和な世界で愛されんことを。


 智に優れしレシュ。考えたまえ、操りたまえ、我らの脳。


 魔獣の歯を敷き、並べて道を造りしは、狩人シン。


 死の向こう、タウ。我らと交わした誓いの印。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忘れられた英雄の詩 オドマン★コマ / ルシエド @Brekyirihunuade

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ