決して手放してはいけない荷物

いおにあ

第1話 眠いよ~


 ねむい。ねむい。学校行きたくないよ~。


 ふっかふかのおふとんにずっとくるまれていたい。この、あったかい空間にしがみついて生きていたい。


 はぁぁ・・・・・・盛大なため息が、おふとんの中を満たす。少しあったかくなった気がするけれど、気のせいかな?


 ピピピピピ、ピピピピピ。目覚まし時計の電子音が、容赦なくせっついてくる。起きろ、起きろ、起きろ。ピピピという無機質な音声は、まるでそう言っているみたいだ。


 はいはい分かりました。起きりゃいいんでしょ。おふとんから、のそのそと顔と腕を出して、ぼくは目覚まし時計を止める。


 はあ・・・・・・学校行かなきゃ。イヤだなあ~。 ぼくは今日二度目の、盛大なため息をつく。


 そんなにイヤなら、サボればいいじゃん。内なる声がそうささやいてくるが、そういうわけにもいかない。学校だけならいいんだけれど、お仕事もあるのだ。さすがにお仕事の方までサボってしまうと、お給金きゅうきんが絶たれてしまい、生活が立ちゆかなくなる。まったく、実に世知辛い世の中だ。


 そういうわけで、ぼくは学校と仕事へと行く身支度をする。朝ご飯食べて、歯を磨いて、お洋服を着て。よし、準備完了。さあ、行くぞ。


 玄関を出ると、早速、仕事が入っていた。玄関口に設置された荷物ボックスに、小包がひとつ。これを通学途中に目的地まで、届けるのが、今日のぼくの仕事だ。


 ぼくみたいな学生も、こういう運送の仕事の手伝いをするようになってから、十年くらいが経つ。Amazonとか、ネット通販の利用が全世界的に拡大し過ぎて、慢性的に人手不足の運送会社は遂に、こういうシステムを作り上げてしまった。つまり、一般人でも少しだけ運送の手伝いができるのだ。もちろん、お給料も貰える。少ないけれど。


 ぼくは、平日の自宅から学校までのルートを登録している。だから、そのルートに届けて欲しいものがあるとき、こうして玄関口の荷物ボックスに、運んで欲しい荷物が預けられているのだ。


 さーて。今日配達する荷物はなにかな~?ぼくは小包を覗き込む。そこには、デカい一枚の紙に、こんなにことが書いてあった。



「!!!注意!!! この荷物を一度手にしたら、目的地まで決して、はなさないで!!!もしはなしてしまうと・・・・・・!!!」



 え・・・・・・?なにこの表示。だれかのいたずら?ううん、でも傷ひとつつけずにボックスを開けることは、ぼく以外に不可能なはずだし・・・・・・ということは、このぶっそうな表示は、少なくともぼくの家に来る前には既に貼られていた、てわけだ。


 うわー、どうしよう~。もう荷物持っちゃったから、早いとこ届けなきゃ・・・・・・朝から変なことに巻き込まれちゃった。泣きたくなっちゃう・・・・・・。なんの因果で、こんなことに巻き込まれてしまったんだろう。


 でもぼくは、すぐに気持ちを切り替える。仕方ない、とにかく目的地まで運ぼう。そうだ。そうすれば、なんとかなるはず。うん、となれば一刻も早く、この荷物を送り届けよう。


 荷物を抱えたまま、ぼくは一歩を踏み出すのだった。

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