はなさないで 【KAC20245】

KKモントレイユ

第1話 はなさないで 【KAC20245】

 京介は最近入ったオカルト研究会の智恵と葉山はやまという二人の女性と一緒に心霊スポットとして有名な廃校に行くことになった。

 京介と智恵は見えるがはらえない人。葉山はやまは見えるしはらえる人だ。


 智恵が「どうせ行くなら夜がいい」と言ったが、葉山が「夜はダメ。見たいドラマがあるから」と言い、昼過ぎに行くことになった。


 その廃校の周りは昼でも人気ひとけがなかった。

 校舎の中へ入ろうとする智恵に京介が「不法侵入だ」と止めたが、智恵は構わず中に入って行く。

 そして『出る』ことで有名な二階の教室に入る。


 黒板に


『はなさないで』


 と書いてある。


「なんだよこれ。やばいよ。帰ろう」

「大丈夫よ」


 その時、何かが教室に入ってきた気配がした。


「なに?」

 智恵が血の気が引いたような表情で後ずさる。


「ここで話をしたから、呼んだのかしら」

 葉山が教室を見回しながら呟いた。


 バタンと教室の扉が閉まった。


 気が付くと小さな男の子が教室の中にいる。

「キャッ」

 智恵が葉山にしがみつく。

 男の子が三人に近づいてくる。

 京介も背筋が凍る思いがした。


「だから『やめよう』って言ったんだ。逃げよう」

「もう無理よ」


 慌てる京介と智恵。


 葉山がゆっくり男の子に近づく。すると、その子は葉山の手をグッと握った。

 そして、葉山は物凄い力で窓際まで引きずられた。

 次の瞬間、男の子は窓から飛び降りた。

 葉山は男の子の手を握りしめ、もう片方の手で落ちないようにサッシにつかまった。


 男の子が葉山を見上げ、助けを求める様な表情で、


「はなさないで」


 と言う。


「大丈夫。私は、はなさない」


 葉山の体を智恵と京介が落ちないように支える。


 葉山は何かを口ずさみながら、力いっぱい男の子を引き上げ抱きしめた。

 その瞬間、男の子の瞳に涙が光った。


 男の子は笑顔で、

「ありがとう」

 と言って消えた。


 気が付くと黒板の文字が消えていた。


 三人は、この教室で何があったかわかった気がした。

 そして、顔を見合わせ言葉を交わすこともなくその場を去った。

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