私の名前はハナコ
桔梗 浬
学習は危険な香り
「カシコマリマシタ」
「わっ! しゃべった」
「あははは。良いだろ? お手伝いAIロボ。俺たちがいない間、
「すごいね。でも大丈夫かしら? 優、ぐずらないかな?」
「大丈夫だろ? だから、お前に寄せたビジュアルにしてもらったんだからさ」
このロボット、雰囲気が私にかなり似ている。どうやら注文する時に、目の色から顔の細かいパーツ、背の高さや体型まで選べるらしい。
共働きの私たちにとって、ベビーシッター替わりのロボットは、本当にありがたい。今流行りのお手伝いロボが我が家にやって来たのだ。
「名前は、……そうだな、花子で良いよな」
「『ハナコ』カシコマリマシタ」
こうして花子が家族となった。
とても働き者で、洗濯、掃除、オムツの交換、食事の後片付けまでほとんどの家事や細やかなお願いをこなしてくれる。
少しずつ言葉も覚え、優に本を読み聞かせられるまでになっていった。
「花子さん、
「カシコマリマシタ」
ある日食事の準備のため、私は花子に箸を持っていて欲しいとお願いをした。それが間違いの始まりだった。
「ちょ、ちょっと何しているの?」
「優チャン ヲ 持ッテイマス」
愛しの我が子は上着の
「ちょっと止めて!」
私は慌てて泣きじゃくる優を抱き締めた。花子、どうしたっていうのだろう…。
それだけではないのだ。花子は賢くなっていったが時々おかしな行動をとるようになっていた。
「花子さん、今日のお買い物、
「カシコマリマシタ」
帰宅して冷蔵庫を見ると、そこには殼むきされた
それだけならまだ笑って許せる。でもとうとう花子は優に危害を加えたのだ。
「花子さん、そこの
待っていても、花子は会社の資料を持ってきてはくれなかった。お手伝いといえども、出来ることは自分でやれってことかしら? と思っていたら、ベッドルームから優のガン泣きする声が聞こえた。
駆けつけてみると、花子が優の
「ちょっと! 何してるの花子さん! 優を今すぐ放して!」
「カシコマリマシタ」
「何してたの?」
「優チャン ノ
私は唖然と花子の顔を見つめるしかなかった。そしてその夜、夫にことの経緯を話した。
「ねぇ、花子…返品できないかな? あの子、バカなのよ」
「そんなことないだろ? お前の伝え方が悪いんじゃないのか? 俺には良くできたお手伝いに見えるけどな」
「でも…心配なの。明日、私…残業だし。早く帰ってこれる?」
「花子に任せとけば大丈夫だろ? それに俺も明日から出張だし」
こうして結論は出ず、裕也が帰ってきてから花子のことは決めることになった。
「ただいま。優?」
仕事から帰ってくると、優のガン泣きしている声が聞こえてきた。
「ギャーーーーーー」
「優!」
バンっ!
ベッドルームの扉を開けると、真っ暗な部屋の中で花子がバタつき嫌がる優をぎゅっと抱き締め離さず固まっていた。
「ちょっと何してるの?」
私は優に駆け寄る。でもすごい力で優を
「うっ」
優のオムツは一体いつから換えてないのか、すごい臭いを放っている。これは優本人も気持ち悪いに違いない。
「花子さん、
「カシコマリマシタ」
花子がやっと優を解放したので、私は慌ててオムツの交換を始める。あぁ~これはひどい…。
「誰がこんなお願いをしたの?」
私は怒りに任せて花子に怒鳴った。
「花子、話しなさい!」
「カシコマリマシタ」
「旦那サマ二『
「はぁ?」
「今夜、ユカサマ ト 温泉旅行 ダソウデス。
「ユカって誰よ?」
「存ジマセン」
私の怒りは沸点に達した。あんにゃろぉ~! 殺意がわいてきて、止められなかった。
「殺す!」
「カシコマリマシタ」
花子にインプットされた私の言葉…。そして花子の手が優に伸びる!
「止めてーーーーーっ!」
ピピピピ…。安全装置が働いた。
部屋には、動かなくなった花子と、言葉遊びの幼児向けの本が残された。
END
私の名前はハナコ 桔梗 浬 @hareruya0126
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