第六話:アルス

「よろしくっす、ご主人」


 ノルンに負けず劣らずの美少女は、俺の周りをくるくると周りながらそう繰り返す。

 呆気に取られていた俺は、一つ咳払いをして彼女に目を向けた。


「ええと、俺が君を召喚したプルソンだ。よろしく」


 キラキラとした純真無垢な瞳が俺に向く。そして少女は嬉しそうに跳ねまわった。


「分かりました! 自分の名はアルスっす! プルソン様に一生ついて行くっす!」 

「そうっすか。……って、俺まで引っ張られるんだが、その喋り方」


 かなり癖のある喋り方をする子だ。


「嫌っすか?」


 少女の瞳が一転して不安げに揺れる。そんな目をされたら、断りずらいことこの上ない。


「…いや、むしろ気楽でいいかもな。これからもその調子で続けてくれ」

「了解っす!」


 結局そう許可すると、少女はわーいと飛び跳ねた。

 その様子を微笑まし気に見ていると、隣でノルンが囁く。


「プルソン、さっそく彼女のステータスを確認してみよう?」

「そんなことができるのか」


 帝王である俺のステータスも見れたのだから、もしかしたらとは思ったが、まさか本当に見れるとは。


「うん。【帝王録】でいつでも確認できるよ。【配下】ってページだね」

「分かった。見てみる」


 【帝王録】を開いて、ノルンが指定したページを開く。

 細かい枠が立てに伸びていて、空白が目立つ表の一番上に、アルスという名前があった。

 それを選択すると、アルスのステータスが出てくる。


 俺とノルンの視線がそこに集中した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前:アルス

種族名:人間

ランク:S

LV:1

統率87 知略88 耐久55 攻撃86 魔力40 機動78 幸運32 特殊36

特性:人たらし 龍殺し 王道を征く者 ??? ???

固有能力:英霊召喚


≪特性≫

人たらし……人から好かれやすくなる。また交渉、外交に補正(大)。

龍殺し……竜属性の敵に対して攻撃、防御、機動補正(大)。

王道を征く者……内政に関する知識を有する。またこの者が指揮する部隊の能力に補正(中)


≪固有能力≫

英霊召喚……絶対の服従を誓う十一体の英霊を召喚可能。英霊の強度は当人のレベルに依存する。また一定時間の経過で英霊は消滅する。(再使用までに72時間を要する)


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ノルンが苦笑して呟く。


「やっぱりランクSか~……固有能力も強そうだし、すごい子が生まれたね。レベル1なのにとんでもないステータスだよ」


 驚きを通り越して呆れているのか、それとも予想していたのか、ノルンの驚きは少ない。

 だが俺にも、アルスのステータスがぶっ壊れているということは分かった。

 なにせ、帝王である俺に匹敵する力を持っているのだ。これが普通であるはずがない。


「…ていうか、能力値なんて俺よりも高いぞ? ありえるのか?」


 俺の能力値は、【統率35、知略40、耐久5、攻撃20、魔力60、機動30、幸運15、特殊120】だ。

 それに対してアルスは【統率87、知略88、耐久55、攻撃86、魔力40、機動78、幸運32、特殊36】である。

 俺が勝てている能力値は【特殊】と【魔力】だけ。こうしてみてみると、圧倒的な差だ。


 俺の疑問にノルンは笑みを浮かべる。


「そういうのはたまにあるよ。まあ能力値が全てとは言えないけどね」

「どういうことだ?」

「能力値っていうのは、いわゆる才能なんだ。別に直接的な力ってわけじゃない」


 ノルンが一つ指を鳴らすと、空中に単純な数式が浮かんだ。


「例えばの話をしよう。アルスの攻撃は86だよね。流石にSクラスだけあって、これは相当高い数値なんだ。普通の配下はこんな能力値の子はいない。だけど、これはあくまで才能があるっていうだけなんだよ。強さっていうのは、才能を反映した【能力値】と、努力を反映した【レベル】の掛け算で決まるからね」


 なるほど。かなり分かりやすい。

 能力値とレベル、この二つの掛け算が基本的な強さである。そして、そこに≪特性≫などか関与することで最終的な能力が決まるのだろう。


 ノルンの言葉に納得し、うなずく。


「つまり、アルスは才能は抜群だが、レベルが上の敵には及ばないってことか」

「分かりやすく言えばそういうことだね~」


 ノルンは小さく、そして真剣な顔で頷く。


「だけど気を付けなよ。才能があるのは確かだし、このままレベルを上げていけば、彼女はとてつもなく強くなる。そしてよく切れる刃物は自分を傷つけかねない。…実際そうやって配下に飲み込まれた帝王を、ボクは何人も知ってる」


 知っているという分、ノルンの言葉は重い。

 だが俺は、しっかりと頷きながらも笑みを浮かべる。


「だろうな。けど、もしそうなったら、それはきっと俺のせいだ。この子は悪くない」


 もしこの子に見限られたなら、それは俺の力不足だ。

 決してこの子は悪くないし、そんなことを警戒して彼女を蔑ろになどできるものか。


 俺の決意を感じ取ったか、ノルンはやれやれと肩を竦める。


「キミは優しいね。それがキミの選択なら、ボクは何も言わないよ。帝王の数だけ道があるからね!」


 ノルンは微笑んでいた。

 男が決めた道を塞ごうとしない。ノルンは良い女だ。


「ああ。ありがとう」


 それだけ言ってステータスページを閉じて、俺はアルスに向き直る。

 しばらく辺りを眺めていたアルスは、俺の視線に気が付いてトコトコと近寄ってきた。


「もういいんすか?」

「ああ。アルスは凄い能力を持ってるな。驚いたよ」

「もちろん、自分は強いっすから! ……それで、そちらの方は?」


 そういえば、ノルンのことを紹介していなかった。

 俺が喋る前に、ノルンは自ら名乗り出る。


「…ボクは【運帝】ノルン! プルソンと同じ帝王だよ」

「他の帝王ってことっすか?」

「うん。そうなるね」


 その瞬間、アルスが纏う雰囲気が変わった。

 

「なるほど……それなら、さくっとやっちゃうっす」


 そんな物騒な言葉を口にした瞬間、アルスが消える。…いったい、どこへ行った? 

 だが、そんな疑問は形になる前に霧散した。


「…なにっ!?」


 次の瞬間、俺はその光景に驚愕する。

 俺の目に映っていたのは、ノルンに向かって黄金の剣を振り下ろすアルスの姿だった。

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伝統芸能で世界を統べる!~芸能に愛された帝王、美少女軍団と共に最強へと成り上がる~ 宙宮琺瑯(そらみやほうろう) @sunchino

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