風船をはなさないで

アほリ

風船をはなさないで

 「うららかな春だなあ。」


 電信柱の上で、1羽のカラスが暖かい日差しを浴びてすっかり春の陽気になった街の様子を見詰めていた。


 「あらぁ、今日はやけに親子連れが多いなあ。

 子供達はそれぞれカラフルな風船持って、嬉しそうにはしゃいでるねぇ。

 どっかで、風船配ってるんだなあ。」


 カラスのママレモは、子供達の手に持った風船に見惚れていた。


 すると、


 男の子の手から、するりと青い風船の紐が離れてフワフワと飛んでいってしまった


 「いゃぁーーーーー!!風船飛んじゃったーーーー!!」


 「坊や!あんたがいけないのよ!!」


 カラスのママレモの眼下には、わあわあと泣きじゃくる男の子と叱咤する母親の姿が。


 そして目の前の電柱の送電線には、男の子の飛ばした青い風船が引っかかっていた。


 「あーーーーー、風船かぁーーー。私も風船欲しかった・・・って待てよ?!

 この風船、男の子が過って飛ばした風船でしょ?!

 それを目の前でくすねたとしたら、只でさえ私達カラスは人間に嫌われてあの親子にも『泥棒ガラス』呼ばわりして嫌がられるでしょ?!

 やっぱり・・・やるしかないかぁ!!」


 カラスのママレモは、電信柱から送電線にパッと飛び移ると送電線に引っかかってる青い風船の紐を取って嘴にくわえて飛び立ち、風船を飛ばしてしまった男の子の側に降り立った。


 「あらやだ?このカラス、坊やの風船を・・・」


 母親は、男の子の飛ばした風船を加えてキョトンとしているカラスに気付いた。


 「カラスさん!僕の風船持ってきてくれたの?ありがとう!カラスさん!」 


 男の子はカラスから風船を受け取ると、軽く会釈をした。


 カラスのママレモは、男の子に「もう風船をはなさないでね!」と目配せすると、バッ!と翼を広げて飛び立った。


 「いやぁ、いいことすると気持ちがいいねぇーーー!!

 ・・・って思ってる側から、また風船がはなされて飛んでる!!」


 今度は緑色の風船が目の前でフワフワと空高く飛んでいくのを、カラスのママレモは見て仰天した。


 「パパぁーーーー!!風船飛んでっちゃったーーーー!!」


 またしても風船こ紐を離過ってして泣きじゃくる子供が眼下に見えた。


 「今度さこの緑色の風船をあの女の子に届けなきゃ!!」

 

 カラスのママレモは、一生懸命に翼をはためかかせてどんどんどんどん空へ昇っていく緑色の風船を追いかけた。


 「待てぇーーーーー!!女の子の緑色の風船!!」


 しかし、風船はそよ風に煽られて更に空高く高く飛んでいく。


 どんどんどんどん風船から放されていくカラスのママレモは、更に翼をはためかかせて飛行スピードをあげて風船を必死に追いかけていった。


 「ん?・・・げっ!!」


 今度は、向こうからオレンジ色の風船がこっちに向かって飛んできたのだ。


 「何で子供達は直ぐに貰った風船を放しちゃうんの?

 注意散漫じゃないのー?」


 カラスのママレモは、とっさにオレンジ色の風船の紐をパッと嘴で捕まえて再び飛んでいく緑色の風船を追いかけた。


 「落ち着いた!緑色の風船に追いついた!!って・・・ん?」


 カラスのママレモは、その緑色の風船が飛んでいった時に初めて見た時より若干膨らんでいるのを感じた。


 カラスのママレモは、気圧の変化で膨らんでいる緑色の風船の紐を嘴でパッと捕まえた。


 「あぶねぇ!あぶねぇ!もっと空高く飛んでいったら、大きく膨らみ過ぎてパンクしていたとこだった!!」


 カラスのママレモは、オレンジ色と緑色の風船の紐をくわえて元居た街へ降り立って過って風船を離した子供達に渡そうと急降下した。


 「えっ?!また風船が飛んでいる!!」


 カラスのママレモは、目の前に飛んできたピンク色の風船とニアミスしてギョウテンした。


 カラスのママレモは急降下からの急上昇して、ピンク色の風船を追いかけた。


 「ふぅ・・・やっと捕まえた!!って・・・またぁ?!」


 今度は向こうの方に赤い風船が飛んでいるのを見つけて嘴で捕まえると、


 「ええっ!?また風船がとんでるよぉ?!」 


 次は青い風船が上空に飛んでいったのを発見してしまった。


 「んもぉーー!!あの街の子供達はみーんな注意散漫だなぁ!!

 もう風船をはなさないでよぉ!!」


 カラスのママレモは透かさず青い風船を追いかけて、パッと透かさず捕えた。


 「えっ!?また?」


 パッ!


 「また飛んでる!!」


 パッ! 


 「ええ?また風船?!」


 パッ!


 「えええっ!!もうきりが無い!!」 


 ・・・と、カラスのママレモは空にひっきりなしに風船が飛んでいっては、風船を捕らえまくって、遂に嘴はいっぱいのカラフルな風船の紐を加えて風船の浮力だけで翼を拡げてはためかせなくても飛べるようになってしまった。


 「やべぇよぉーーー!!やべぇよぉーーー!!拾った風船が多すぎてもう子供達に渡しきれなくなったわ!!」


 気付けば、空は夕焼け空になって子供達は、カラスと一緒に帰ってしまう時間になっていた。


 「もうお人好し・・・というか、おカラス好しが良すぎるのも困りものだわね。

 つーか、そもそも子供達は風船離しすぎなんだよねぇ・・・

 つーか、この風船の束どうしよう。

 塒に持って帰るのもひと苦労だわね。

 木を風船だらけにして、風船の館にしましょかしら?丁度わたしの夢だったの。風船に囲まれた塒!!

 よっこらしょ!!」


 カラスのママレモは、多すぎす風船の浮力に嘴が持っていかれるのを何とか堪えて、翼を拡げて夕闇の空へ飛ぼうとした。


 と、その時。


 


 ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!ちゅー!!



 「あーーーっ!!風船いっぱい!!どうしたの?!おいら!風船大好きなんだ!!

 少し分けてくれない?

 ちょうだい!!ちょうだい!!ねえ!!ちょうだい!!」


 突然、カラスのママレモの足元に一匹のドブネズミのチュー百九太がチョロチョロとやって来て話しかけてきた。


 「チュー百九太さん!!こんな時にいきなり話さないで!!」


 足元でしつこく風船をせがむネズミのチュー百九太に話しかけたとたん・・・



 ふうわり・・・ふわふわふわふわ・・・



 「しまったーーー!!」


 カラスのママレモは話そうと思わず嘴を開いてしまい、加えていた風船の束を過って離してしまった。


 大量に夜空高く飛んでいく、無数の風船。


 「ああ、ごめんね。カラスさん。あーあ、風船放しちゃったね!!ぼ、僕が話しかけたせいかなぁ?」


 ネズミのチュー百九太は、呆然と空を見上げるカラスのママレモを見詰めていた。 







 〜風船をはなさないで〜


 〜fin〜

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風船をはなさないで アほリ @ahori1970

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ