あの日の約束

136君

あの日の約束

 私は家の近くの公園を通る度に思い出すことがある。


 あれは私がまだ幼稚園に通っていた頃。


「ねぇ、こーくんはさ、どこいっちゃうの?」

「わかんない。けど、どこかとおいところ。」


同じ幼稚園に通っていたこーくんは、家も近くて仲が良く、よく一緒に遊んでいた。


 でも、こーくんは年長の終わりくらいにどこかに引っ越してしまうことになった。まだ何も分かっていない私は、それがどういうことかも分かっていなかった。


「じゃあまたあえるね!」

「それは…わからない。」

「なんで?」

「ぼくがいくの、ずっととおくのけんなんだ。」


ずっと遠くの県。その言葉は私とこーくんの距離を引き離す、それほどの力を持つ言葉だった。


 絶対離れたくない、ずっと傍にいたい。そうやって考えているうちに、私の中に生まれた気持ちがあった。


(わたし、こーくんのことがすきなのかも。)


その気持ちが溢れ出してきて、そして…


気づけばこーくんの手を握っていた。


「どうしたの。」

「わたしははなさないから、こーくんもはなさないで。」


 そのとき、夕焼け小焼けが流れた。もう帰る時間だ。


「ほら、もうかえるじかん。かえるよ。」

「はなさないで。」


我ながらなんてことをしているんだろうと思う。でも、当時の単純な私はそうするしか出来なかった。


「でも、いえにかえったらつないだままではいられないよ。」

「わかってる。だからかえらないで。」

「そんな…」


正直、この発言は困らせたんだろうな。でも、こーくんは優しく笑った。


「じゃあやくそく!またあえる。ぼくがひっこしてもまたあえる。」

「ぜったい?」

「ぜ〜ったい!」

「じゃあやくそく!」


夕焼けの空の下、私たちは小指を結んだ。


 あれから20年は経った。私はまだこの街に住んでいて、こうやって思い出す。


「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはりせんぼんのーます!ゆびきった!」


誰もいないところに小指を結んでそうやって呟く。もう名前も覚えていない。覚えているのは『こーくん』という呼び方だけ。


 私はそのまま家に帰った。

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