はなさないで!!!!!

星之瞳

第1話

「ギャーどうしてこんなところ渡らなくてはいけないのよ!」

「しょうがないだろ。申し込んだツアーのコースに入っていたんだから」

「そんなこと言って、事前にわからなかったの!」

「解らなかったよ。シークレットでどっきり体験だったらしい」

「わぁ!離さないでよ。怖い!!」

「解ったよ。離さないから、しっかりついておいで」

なんでこんなことになったのだろう。私は重度の高所恐怖症なのだ。歩道橋や、ビルの屋上から下を見るのも怖いくらい。なのに彼と旅行に来てなんとつり橋を渡っているのだ。風が吹いてつり橋が揺れる。下なんで見れたものではないし、景色も楽しめない。ただひたすら彼の手を握りついていくのがやっと。

「もういや!帰りたい」

「半分来たからもう少し頑張れ」

後ろから来た人たちが追い抜いていく。あまり遅くなるとツアーに迷惑がかかると思うのだが、体が動かない。

「さ、行くぞ。俺の手を離さないようにな」彼は私の手をしっかり握ると少しづつ前に進み始めた。

何とも言えない時間が過ぎる。少しづつではあるが岸に近づいているのが解って私は少し落ち着いてきた。でも何があるか最後まで解らない。

「きゃ!!」少し強い風が吹いて私は座り込んでしまった。

「ロープを離さないで!!」彼の声がする。つり橋は少しづつ揺れが収まってきた。

「さあ、もう少しだ」私は、おずおずとロープから手を放して彼の差し出された手を握った。

「離さないでよ!」私は立ち上がり彼と歩き始めた。

暫くしてようやくつり橋を渡り終えた。私は彼が見つけてくれたベンチに座り込んでしまった。暫く呼吸を整えていると、彼が帰ってきて

「飲む?」と温かい缶コーヒーを差し出した。

「ありがとう」私は受け取ると手を温めふたを開けゆっくりと飲み始めた。

「美沙でも、怖がるんだね」

「何よその言い方。高所恐怖症なのよ、高いところが怖いのは当たり前じゃないの!」

「悪い、言い方が悪かった。いや美沙さ、しっかりしているというか、『人の手なんか借りません』みたいなところがあるからさ。人を頼るかわいいところもあるんだな~って思って。これからは普段でも俺を頼ってくれたらいいな・・・」

私は思わず顔を上げて彼を見た。なんか彼が普段とは違って頼もしく見えた。


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