【KAC20245】パパ上様日記 ~我が家はなんでもはなしちゃう~

ともはっと

パパ上様はおしゃべりさん

「いや待って! それはさすがに話さないでほしい!」


 普段おしゃべりで記憶力が家族一であると――正しくは人のいやぁなところだけは覚えている――定評のある私ことパパ上が、ふと思い出したとある出来事を話しているとき、我が妻であるティモシーが、リビングで立ったまま子供たちに話している私の服の裾を掴んで私のおしゃべりな口を止めようと試みていた。



 大丈夫だよ。安心しなさい。



「――で、だな」

「話すなっていってんだぁぁぁ!」


 慎ましく掴まれていた裾から、まるで私を羽交い絞めにするかのように背後から抱きついてくるティモシー。

 私ももちろん抵抗する。

 くるりと体を回転させては背後にバックステップ。合わせて体にまとわりつく寝間着をばっと脱ぎ捨て投げつけると、ほんの一瞬動きが止まったことで、ティモシーとの間に人一人分程度のパーソナルスペースを確保することに成功した。

 私は、まるでプロレスラーかのように腰を軽く落とし、いつでも掴みかかれるように両手を適度に開いてファイティングポーズの姿勢をとる。合わせてティモシーも同じポーズをとり、互いにじりじりとパーソナルスペースを削りつつ戻しつつの攻防をリビングで行うことになった。


 ここはすでに戦場。

 時折威嚇として伸びてくるティモシーの手を払ったり、時には組んでみたり。

 次第にエスカレートしていくその戦いは、ゆっくりと互いに床に握りこぶしをつけると、二人揃って、お尻を突き出してお相撲さんスタイルで互いを睨みつける。



「はっけよぉぉい」

「のこったー!」


 子供たちの合の手が入ったことを皮切りに。

 ティモシーと私はがっちり組み合う。この時点ですでにパーソナルスペースなんてものはなく、ただただ元の話がうんたらなんてものは関係なくなっているのだが、それはそれである。



「ふんぬるばぁ!」



 がっちり組み合った体勢からいきなり力を抜いてやると、力の行先を失ったティモシーが前めりになった。そのまま押し込み地面にひれ伏せさせると戦いは終わった。



「ぜーぜー、はぁはぁ……ぶひゅるるるぅ……ぶひー……ぶひー……」

「豚さんめ……」


 常にその一瞬に全力を出す私だ。『無敵時間まともに動ける時間は5秒』は伊達じゃない。

 こんな戦いに負けてなるものか。



 床に寝転がるティモシーと荒々しい息を吐きながらも二つの意味で立ったままの私。

 どっちが勝ったかは明白である。二つの意味で立ってるしね。



 だが、結果として、私の負けである。



 敗因は、不浄負け――もろだしだ。




 なんせ私、裸だからね。

 とりあえず、脱いだ服を着直そう。



「で、まあ、ダンクスマッシュを放ったことで足の骨折った私と付き合うことになったティモシーなんだがな。どこぞのデート先でちょっと美味しい寿司屋にいってるときにその話題になって、そこで初めて自分が告白されて付き合ったと思っていたのを、勘違いしたことで自分から告白したってことに気づいたわけだ」



 元々、何の話をしていたかって?

 息子と娘が、私とティモシーのどっちが告白して付き合うことになったのか、という話を恋愛ドラマやらなんやらで触発されて聞いてきたから、勘違いからのティモシーからの告白だったことを伝えようとしたらこんな乱戦になったわけだ。



「話さないでって言ったのに……」



 そう言いながら、勘違いしたことによる恥ずかしさを思い出して、私が着た服の裾をぐっと掴むティモシー。



 私としては、いつまでもそうやって、ぐっと服を掴んでいるその手を、これからもずっと、離さないでほしいのだがね。





 そんな我が家は、



 今日も、



 平和である。







 なお、ダンクスマッシュなるお話は、本家日記にて。

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