第1話 お帰りください。

足元から魔法陣が出てきて強い光が自分を襲ったと思ったら、僕は1人大通りに立っていた。

「ここが異世界か……」

アラタは初めてくる異世界に新鮮味を感じていた。

トカゲが引く馬車。奇抜な服装をした人々。猫耳や尻尾を生やした亜人。耳がとんがっているエルフ。かと思うと自分と同じような人もいる。

さてどうするか。アラタは腕を組み考える。

異世界転生のゲームや小説だと、ここでギルドに行くのが定番だ。何かを始めるにもまず冒険者にならないといけない。

冒険者になってモンスター倒したり、パーティー組んでダンジョン攻略したり!

アラタは胸が躍っていた。現世では友達もおらず、学校にもろくに通えず、家でゲームや漫画を見て時間を潰すだけだったが、ここでは違う。

仲間作ってモンスター倒して、女の子のハーレムに!

「さっそく冒険者登録だーー!イャッホーイ!」

アラタは人目を気にせず、大声を上げながら走りだした。

               

「無理ですね」

冒険者を管理する受付嬢からの第一声は無慈悲にも冷たいものだった。

ここは冒険者や討伐依頼を一括で冒険者ギルドだ。レンガ作りの酒場と合体しており、日が高いにもかかわらず多くの人たちが酒を飲んでいた。

「なんでなんですか!?この通り冒険者登録書も書きましたよ!!」

アラタは声を荒げ受付嬢に詰め寄っていた。

「ですから、先ほどから言ってる通り冒険者になるには、冒険者学校の卒業か最前線にいる冒険者の推薦状が必要なんです!」

「そんなの聞いてないー!」

「冒険者になりたいと思うのならば、そのくらい調べておいてください!」

ええ……。ゲームや漫画にも初期で冒険者にすらなれないなんて展開あったか?厳しすぎるでしょ!普通こういうのはスムーズにいくものじゃないの!?


どうやら冒険者になるには条件があるらしい。

一つ目が、冒険者学校の卒業である。3年間ある学校はモンスターの討伐の仕方や魔法の使い方を学ぶ。そして卒業試験に合格することで冒険者になるというもの。

二つ目が、偉大な冒険者からの推薦状。この場合は冒険者学校を卒業する必要がなく試験も免除される。まぁ、折り紙つきの冒険者から推薦されるのだ。学校免除は当たり前だろう。


「誰かお願い!僕を推薦してくれる冒険者はいない?!」

なりふり構っていられない!こういうのは土下座してでも冒険者になっとかないと!


なぜそこまでして冒険者になろうとするのか?それはデメリットが大きすぎるからだ。

まずステータスが付与されない。この世界では職業に就くことによってステータスが付与される仕組みなっている。冒険者ならHP多めステータス。魔術師ならMP多めのステータスなど。各職業によってステータスは大きく変わる。

では村人はどうか?村人はHP10 MP1の最貧弱ステータスだ。そのため街の外にでようものなら一瞬でモンスターにやられてしまう。

当たり前だが、貧弱ステータスだとギルドがだす依頼も受けられない。

僕は初期状態。つまり村人ステータスなのだ。


あたりを見まわし、酒を飲んでいる者に推薦してくれないか頼む。だが酒を飲んだり、騒いだりしていて反応する気配がまったくない。

そのとき、千鳥足で肩を組みながら片手に酒を持った冒険者が声をかけてくる。

「やめとけ、やめとけ!冒険者なんて、ろくな職業じゃねぇぞ!それにな、ここは一番最南の村。言ってみれば初心者村だぁ。冒険者なんかいるわけねぇだろぉ」ゴクゴク

男は顔を真っ赤に染め酒を飲みながら言ってきた。

言われてみればそうだ。ここが全線の街や村だったら、こんなふうに真っ昼間から酒を飲む者はいないだろう。ここは安全がゆえに昼間から酒が飲めるのだ。


「でもでも!ここで冒険者になれないと僕の計画が台無しになっちゃう!」

僕は受付嬢にもう一度詰め寄る。ここはなんとしてでも冒険者になっておきたい!今後のハーレム……世界の平和のためにも!

「うーん、でしたら何かスキルとかお持ちですか?」

「スキル?」

「はい。冒険者学校や冒険者の推薦がなくても、特別処置としてスキルの所持で認められることがあるんですよ!学校に通わせるお金がなかったりされる方もいらっしゃいますから」

キルか……。僕は過去の記憶を辿り女神との会話を思い出していた。


『今回は引き受けてくれたお礼にチートスキルを差し上げます』


「あっ!あります!あります!スキル持ってます!」

軽くぴょんぴょんと跳ねながら元気よく返事をする。

「では見せてもらっていいですか?」


受付嬢は笑顔で期待に満ち溢れた瞳でこちらを見ている。さきほどの死んだ魚の目とは大違いだ。

賑やかだった酒場も静かになり、男どもは身を乗り出し僕をみている。

「ふふふ」自然と笑みが溢れる。英雄とはこういうことか。

右手に力を溜め突き出す準備をする。おっ何か力が流れこんでくるようだ!

さぁ、しかと見よ!僕のチートスキルを!!!


ジョボジョボジョボジョボ……。←右手からお茶がでる音(京都産)


「お帰りください」

「あんまりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


受付嬢の冷たい言葉に僕は涙が止まらなかった。

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チートスキル貰ったら雑魚スキルだった。仕方がないので真面目に生きます。 @wasd814

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