第一章 幻夢/ネムリ
ユメノオワリ / 01
―――久方ぶりにユメを見た。
それは、なんとも奇怪で、一段と「ヘンなユメ」だった。
第一章___
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鬱蒼と広がる歪な木々は灰色で、眼前には不気味なほどに整然とした白道が、時折霧の間から、その潔白なその姿をちらつかせるのだった。足元に不穏な狭霧が立ち込め、曖昧になった灰色の木々は、その歪な眼で
ホラー映画なんかよりも、その雰囲気はずっとずっと恐ろしく…、私は呆然と立ち尽くしていたのであった。
…そして、どうやら此処は森の中の庭園のような場所らしく、歪だが、所々にアーチが連なって、妙なことに、灰色味を帯びた植物たちが辺り一帯を覆っており、どうも手入れの行き届いていないように見えるのだが、その一本の道だけは、どうも綺麗だった。
―――ひたり
一歩、足を進める。冷たい石の感触が足裏を舐める。あ、私って裸足だったのか。
よくよく見れば、私はパジャマ姿らしい。なんでこんなところで…。ふと頭に疑問がよぎった時、アーチの間に誰かがいることに気がついた。
その人は、私の知らない少年であった。
年は私と同じぐらいだろうか?長い白髪に、驚くほど華奢な肩。ガラスのように透き通る真っ白の肌に、この曖昧な背景にも鮮明に映る、妖美な横顔。その横顔は、中学生程の幼い顔に似つかわしくない、大人びた表情。…彼、なにか知ってるだろうか?この奇怪な場所がなんなのか教えてくれるだろうか。
「あ、あのぉ…」
恐る恐る、声を発する。途端、世界が止まったかのように、静けさが響いた。心臓の音が、耳の奥でせっかちに鼓動を刻む。唾液が、喉の奥に滑り込む。私の息遣いが、ハッキリ聞こえる。
その少年は、ゆっくりと首をこちらに向ける。そうして、きれいな赤の目玉が静かにこちらを見つめて………。
――――そこで、目が覚めた。
…うぅ、頭が痛い。昨日、遅くまで友達と通話していたからだろうか…。枕元のスマホを手に取ると、それを感知してか、画面がぱっと明るくなる。目の奥を突っつかれたような感覚に、思わず目をすぼめた。
眩しいロック画面を片目で見やると、「八月二十九日 五時三分」。妙に早い時間に目が覚めたなあ…と思いつつ、さっさとパスワードを済ませてしまうと、もはや二度寝する気も起きず、動画アプリで時間を潰し始めた。
……さっきの夢など、気付かぬうちに忘れていた。
しばらくして、父の車が遠ざかって行く音が聞こえる。もう六時半頃らしい。
…いい加減、起きないとなあ。私はスマホを置いて渋々と起き上がると、んんーっ、と、大きく腕を伸ばした。いつの間にか、半開きのカーテンの隙間から漏れだした陽光が、程よく朝を告げている。効き過ぎた冷房のせいか、夏にも関わらず、自室は妙に肌寒い。
スマホをパジャマのポケットに突っ込むと、私は自室を出て、下のリビングへ向かうことにした。ギシ、ギシと、一歩踏むたびに階段は鳴き、誰もいないリビングに響いてるのがわかる。薄暗いリビングの机には、父さんが朝食、兼、昼食用に用意したであろうスーパーの惣菜パンが、雑に置かれてた。
思わず、「はぁ…」小さく溜息を吐いた。アレ、いい加減飽きたって言ったのに…。仕方ない、朝食は抜くことにした。
何気なく、テレビを付けてみる。パッと光った画面には、朝のニュースが流れていた。今日のニュースにはこれと言って面白そうなことも何もないのだが、別に何もすることもない私は、何気なくソファに軽く横になり、とくに面白みのない朝のニュースを、聞き流すことにしておいた。少年の起こした犯罪の話やら、少年犯罪の増加の話。最近、物騒な世になってきたなぁ、と感じるのだが、別の県の話だし、まるで自分に関係がなく、これと言って関心は沸かない。
それらに加えて、あまり知らない芸能人の不祥事の話だとか、交通事故を起こした年寄りの話やら…暗い話ばかりのニュースは、薄暗い部屋の雰囲気も相まって、思わずため息が出てしまう。それに、やはり昨日遅くまで起きてたことが祟ってか、今になってミョーに睡魔が襲ってくる。
まぁ、どうせ今日は夜まで父さんは帰ってこないし、これと言ってやるべき用事もないし…いっそ眠ってしまおうかな。そうやって軽く目を瞑れば、数分立たぬうちに、アナウンサの声が、蝉の声にぼやけて、その蝉の声もモヤモヤと曇りだす…。
やがて私は…深く、より深く…さながら深淵が如し、暗い眠りへと、落ちていくのだった。
ユメノオワリ。 銀野 沙波/ギンノ イサナ @suraimudao
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