【KAC20245】魔羊ネエネエの日々の2。

豆ははこ

わたしを……ないで。

『妖精さん。朝露がついたお花を摘んできましたですねえ』


 わたしは森に住む妖精。

 自由に飛んでいたら、運悪く魔物に捕まってしまった。

 

 もう、助からない。


 覚悟をしかけたとき。


 魔羊ネエネエさんとあるじの魔女様に助けて頂いた。


「お前は空気中の魔力を吸収できる魔物! 妖精から魔力を吸収しなくてもよいはず! 手抜きしおって!」


 魔女様が叫ばれた瞬間、わたしはネエネエさんの背にのせられていた。


 そして、森の魔女様のお家に運ばれたのだ。


 あの魔物は、いったい。

『妖精さんはご覧にならないほうがいいですねえ』


 背中にのせてくれたとき。


 ネエネエさんは、そう言っていた。


 羊蹄なのに、飛ぶように早かった。


 あっという間。


 黒い、豊かな魔羊毛。

 モフモフな感触。

 フワフワ、フカフカ。

 とても素敵な一瞬だった。


 わたしは今、魔女様の家の離れに置かれた広い籠の中。


 それは、悪しき魔力で汚れたわたしの魔力を癒やしてくれる特殊な籠で。


『お元気になられますようにですねえ』

 にこにこなネエネエさん。


 なんて、穏やかな魔力だろう。


 朝露がたくさんのお花も、希少種の魔花まか


 遠くまで跳んで下さったのだろうか。


「はなさないで」

 朝露を口に含んだら、やっと、声が戻った。


 ネエネエさんは、さらに、にこにこ。

『素敵なお声ですねえ。大丈夫。誰にも話さないですねえ』


 妖精は、古来より秘匿されるべき存在。


『もっとお話したいですが、お休み頂かないとですねえ。またあとで、ですねえ』


 ネエネエさん。


 あなたは、わたしがこう言ったと思っているのね。


 妖精わたしのことを、話さないで。


 違うの。


 魔女様は、魔物の害から民を守る、森の魔女様。

 ネエネエさんは、優秀な従魔。


 お二人は、きっと。


 喜んで、わたしを自由にしてくれるのでしょう。 

   

 だけど。


 たとえ、声が戻っても。

 どんなに、魔力が溢れても。


 わたしはあなたに、言えないことがあるの。


 わたしのことを、離さないで。


 ずっと、一緒にいたいの。


 どうか、わたしを。


 ……はなたないで、と。

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