KAC20245 はなさないで
@wizard-T
「おかけになった電話は……」
「おかけになった電話は……」
ああ、駄目だ。向こうはもう完全に終わった。
二年間も続いたはずなのに、全て終わった。
追いかけようにも、相手は今やアングロアメリカ。ああんグロいほど遠いアメリカ、とかってうちの教授が言うみたいなダジャレがなぜか今は愛おしい。
彼との、思い出だったから。
大学一年生の時、たまたまその教授の講義で一緒になった私たち。
それから二年、人並みに思い出も作った。いろいろな夢も語り合った。同棲までした。
そしてお互い就職先も目途が付き、いずれ籍を入れようと決めたはずだった。
それなのに。
「いつまでやってるの」
ある日私がバイトを終えて帰って来ると、彼は机と向き合っていた。私の存在に全く気付かず、カリカリカリカリと古臭い音を立てて。
何をやっているのかはわかっている。一週間後に控えていたTOEICの試験。TOEIC○○○点と言うのが就職への絶対的な武器である以上、絶対必要不可欠な事。
それなのに。
「ねえちょっと、お帰りぐらい言ってよ!」
「ああお帰り」
私が必死に促してようやく雑にそう言うもんだから、私は頭に血が上った。
ここまでないがしろにされて何が同棲だ、何が恋人だ。
いっその事そのTOEICとやらと結婚でもしてろ、フーンだ。
とばかりに次の日にしばらく帰郷すると言って荷物を持ち出し、私のアパートに帰ってやった。
それから一週間、本当に何の連絡も来ないまま月日が流れ、そして八日後。
「TOEICの手応えは抜群だったよ。それで結果待ちの間」
「話さないで!もう二度と!」
優先順位が非常に分かりやすい彼の言葉に、私は完全にブチ切れた。
荷物その他は全て回収した。あんなガリベン野郎なんかもう知った事か!
とか啖呵を切ってから一年余り、彼は就職先もワンランクアップして海外へ行き、私は想定よりワンランク下の中小企業へ。
「離さないで」とか彼に言えるほど、私は偉くない。
私が言えるのは、「話さないで」だけだから。
KAC20245 はなさないで @wizard-T
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます