爪切りを使えば良かった
住礼ロー
第五章 そして、血が滲み出していた。(ナレ第一稿)
私は退勤し、社屋を出ると、振り返り、ゆっくりと、深く、頭を下げた。明日からはここに務める事も無い。最後の最後に大ナタで
(映像字幕注釈:※正しくは「当時の月間出荷数が業界1位」ですが、原作表現を尊重し「業界シェアでトップ」という表現ママにしています。)
- 中略 -
この頃になると、
<!--子供たちはアニメやドラマが見れないと友達と話が出来ないと言っていたが、そんなものは友達ではないし、フィクションなど読んでも勉強にもな……-->//←流石にカット。原作者説得済み。//
唯一、
「ささくれに大ナタを振るうような横暴さ」とはよく言われたが、はみ出しているささくれなのだから、何を使ってでもバッサリいくべきだと当時の
-中略-
最後の務めを終えて、社屋に下げた頭を上げた後、来た時と同じ荷物しか無く、花束すら抱えていないことに落ち込んできたのだった。帰っても、労ってくれる家族も、もういない。
だがしかし、いつまでも俯いているわけにもいかなかった。来月から務める新しい職場に思いをはせていた瞬間、ドンッ、と腰のあたりに大きな衝撃。見ると、浮浪者のような小汚い男が果物ナイフをガッシリ握って突進してきていた。
泣きながら紅潮した顔でこちらを見上げていた男の顔から、自身の脇腹に目を移すと、白いシャツが真っ赤になっていた。身体が崩れ落ちる。血の気が引いていく。
世界がゆっくりと白黒になっていく中、視線の先に自分の腕が、手が、指先がだらりと横たわっていた。
無意識にやったのかは今や憶えていないが、前歯でむしられたささくれが指の皮の一部ごと、無くなっていた。
そして、血が滲み出していた。
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収録に一区切りがついた
すっかり常温になったミネラルウォーターで喉をうるおしてブースを出ると、マネージャーから伊勢大四郎氏が見学に来ていて、挨拶をしたいとのことだった。チラと音響兼任の監督の方を見ると、手を合わせながら頭を下げていた。あまりにも早い反応。長く組むと、こういうところもツーカーだ。良いか悪いは別にして。
車椅子の伊勢氏との会話は特筆するべきものは無かった。
「なんか、噂通りでしたねえ」
横でニコニコ聞いていたマネージャーがすっかり疲れた顔で呟いた。
伊勢大四郎氏の自伝である「爪切りを使えば良かった」には批判が殺到していた。その内容のほとんどが自己の過度な美化と誤認と偏見にまみれていたからである。
特に第五章の
あと、
「本当に良かったんですか?このドラマ受けて?」
正直、受ければマイナスしか無いオファーではあったが、一応読んだ自伝の中の一節だけが、
『ささくれも粗雑に処理すると、こんなに痛いとは思わなかった。爪切りを使えば良かった。』
これが伊勢大四郎氏の本心であるならば、爪切り役になる人間がいてもいいだろう。そう考えたのだった。
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後日、伊勢大四郎氏がセクハラで大々的に訴えられたため、ドラマは放映中止となった。
ささくれは、出来ないように生きていくのが、一番なのかもしれない。
爪切りを使えば良かった 住礼ロー @notpurple
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