私の恋の行方

亜璃逢

私の恋の行方

 3月も半ばだというのに、まだがっつりコートを着ていないと寒くてやってらんない。

 ちらほら咲き始めた桜並木を川向うに見ながら、学校へと自転車を飛ばす。

 

 

 花隈あかり、高校2年生。

 今年のホワイトデーはちょっとソワソワしている。

 先月、一大決心をして、隣のクラスの今在家君に本命チョコを渡したんだぁ。


 もうさ、滅茶悩んだよ。手作りにするのか、それとも、勝率9割! ともいわれる人気チョコレート専門店のチョコにするか……

 普段からお菓子を作り慣れているわけでもない私は、貯金していたお年玉をおろして、直前の祝日に、気合い入れて開店前からお店に並んで、いきなり商品争奪戦のようになっていた店内で、お目当てのチョコレートをゲットした。


 普段はお菓子の持ち込み禁止のうちの学校だけど、昔から、いいゆるさというか、なんとなく、バレンタインデーとホワイトデーは先生たちも見て見ぬふりをしてくれているというか。

 美術の渡部先生なんて、バレンタインにチョコ渡したら、七宝焼きのキーホルダーを作ってお返ししてくれるから、美術準備室は毎年チョコの山らしい。卒業生にはちゃんと早めに渡してるって話だから、マメだよねぇ……


 それはさておき私だよ~。

 今在家君は、「ありがとう」ってあの爽やかな笑顔でもらってくれたけど、今日、答えは出るんだろうか。メガネ男子好きな私に彼の笑顔はたまらないのだ。

 お菓子メーカーの策略にうまく乗せられてる感は否めないけど、やっぱり、なかなかきっかけをうまくつかめない私みたいな子には、ある意味ありがたい日だったりするんだよね。


 昼休み。お弁当を食べ終える頃、その時は来た。


「花隈、ちょっといいか?」

「あ、うん」


 心臓が口から飛び出そうになるってのはこういうことかって変なことを考えながら、今在家君のあとを追っかけていく。

 あまり人のいない研究棟の方まで行って、彼は振り返った。

「この間は、チョコレートありがとう」

「う、ううん。お口にあったらよかったけれど」


 何を言ってるんだ私は。


「これ、お返しなんだけど……」


 え、お返し!? お・か・え・し・!?

 これは、期待していいやつ!?


「手紙も読んだ。嬉しかった」


 うん。うん。それで‥‥‥


「でも、ごめん、俺、気になってる子がいるんだ」


「……」


「花隈が、ちゃんとしっかり気持ちを伝えてくれたから、俺も、ちゃんと答えなきゃって思って……」

「……うん。スルーされちゃうかもなんて思ってたから、はっきり聞けてよかった」


 ちょっと涙声になりそうなんだけど、ここで泣いたら今在家君を困らせちゃうからあとちょっと我慢して私の涙腺!


 それぞれ教室に戻って午後の授業を受ける。

 明日が終業式で、春休みに突入だから、ホワイトデーも相まって学校中がなんだか浮ついてる気がする。私の気持ちは海底どころか海溝にドーンと落ちた感じだけど。


 先生の言葉も素通りして頭になんにも入ってこないまま授業を終えホームルームも終わった放課後、ふと、耳に飛び込んできた誰かの声。


「おい、隣のクラスの今在家と淡路さん、一緒に住んでるんだってさ」


 は!?


「あー。なんか親同士が再婚したとか言ってたな」


 なにそれ知らない……


 それが誰かとは聞かなかったけれど、もしかして、気になる子がいるっていうのは、彼女のことだったりするのかもしれない……


 失恋して落ち込むのは想定内だったし、好きな子がいる可能性だって当然あるってわかってたけど。でも……


 心に小さなささくれができたような新たな痛みを伴って、私の恋は散っていった。

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私の恋の行方 亜璃逢 @erise

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