心のささくれ

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「英雄タローよ! そなたの功績を称え、ここに子爵位を授ける!!」


「はっ! ありがたき幸せ!」


 俺は頭を下げる。

 異世界に転移した俺は、チートを使って様々な功績を挙げてきた。

 その功績が認められ、子爵位を授かることができたのだ。


「おお……! 平民が貴族になるとは!」


「前代未聞だ! まさに偉業……!」


 周りから称賛と尊敬の眼差しを受ける。

 そのまま、無事に叙爵式を終えた。

 だが、俺の心は晴れない。

 俺はチートを得たとはいえ、日本では普通の学生だったのだ。


(……正確に言えば、普通以下か)


 別に、親に虐待されたり、学校でイジメられたりしたわけではないのだが……。

 勉強も運動も、遊びも異性関係も、全てがイマイチだったのだ。

 その劣等感が俺にこびれついていた。

 貴族など分不相応である。

 俺はそんなことを考えながら、拠点としている宿屋に戻る。


「ご主人様、どうかなさいましたか?」


「……いや、なんでもない」


 俺は仲間を心配させないように振る舞う。

 貴族になっものの、俺の性根は変わらない。

 これからも、この劣等感――心のささくれは、俺を蝕んでいくのだろう。

 そんなことを考えながら、俺は夜を明かした。


「おはようございます! ご主人様!!」


「う~ん……。おはよう、ニーニャ」


 俺は体を起こし、体を伸ばす。

 窓の外を見ると、明るい日差しが差し込んでいた。

 今日はいい天気だ。


「今日はどうなさいますか? お出掛けしますか?」


「そうだな……」


 俺は少し考える。

 別にやることはないのだが……。

 いや、待てよ?


「魔物の討伐依頼を受けていたんだった。期日まで余裕はあるが、早めに終わらせておくか」


「了解しました! では、朝食と着替えを用意しますね!!」


 ニーニャは元気よく返事をすると、朝食の準備を始める。

 俺には勿体ないほどの仲間だ。

 心のささくれがどうとか、そんなこと言っていられない。

 彼女との日常を守っていかないと。

 俺は気持ちを引き締め、新たな1日のスタートを切ったのだった。

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心のささくれ 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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