一章4

 すると驚いた事にアルさんがその上から柄を握り込んだ。


 思ったよりも大きくがっちりとした手と温もりにドギマギしてしまう。

「ミヅキ。落ち着け」

 耳元で囁かれて余計に落ち着かない。

 それでも深呼吸をして意識を剣に向ける。

「そうだ。それでいい。月玉に祈るんだ。結界を修復したいとな」

「……わかりました」

 あたしは頷くと剣を握る手にぎゅっと力を込めた。

 月玉にも意識を集中させた。

(ルシア様。あたしはここの結界を修復したいんです。力を貸してください)

 そう祈れば、月玉の掛かる胸元が熱くなった。

 目を閉じてひたすら意識を空っぽにする。

 アルさんの剣の柄とあたしの両手を握る手の力が強くなった。

 薄っすらと目を開けると太陽の剣が眩いばかりの光を放っていた。

 黄金と白の混じる光に銀と白の光が入り混じってこの世のものならぬ美しさだ。

 アルさんはあたしの手と一緒に剣を頭上高く掲げた。

 びゅんと音を鳴らしながら剣を真上から振り下ろす。

 あたしの腕も同様になった。

 金と銀、白の光が空の裂け目に飛んでいく。

 それは吸い込まれてパンッと弾ける。

 気付いた時には裂け目は光って元の空の色に戻っていた。

 その後、三度程繰り返して移動する。

 一人で剣を持って試しにしようとしたが。

 剣は重くてふらついてしまい、結局アルさんに後ろから支えてもらいながらやる羽目になる。

 夕方頃になってキリトさんがもうこの辺の修復は終わったと告げた。

 王宮に帰る事になった。

 また、馬に乗って移動する。

「お疲れ様です。月の巫女、これで王国の東部の修復は一部が終わりました。明日になったら神殿で特訓ですね」

「はあ。やっぱり剣を扱えないと駄目ですか」

「そうですね。剣を一人で持てるようにはならないと」

 アリアさんはにこりと笑うとではと言ってデヴィッドさんの所に行く。

 あたしはやっぱりアリアさんとは相性が良くないと思ったのだった。



 王宮に戻るとシェルミナさんが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。ミヅキ様、湯浴みの支度ができていますよ」

「そう。もうくたくただよ」

「お疲れ様です。湯浴みをしたら夕食にしましょう。そうしたら早めに休んでください」

 頷くとあたしは客間に向かった。

 シェルミナさんやナタリアさんの二人があたしの着ていたワンピースとブーツを脱がしてくれる。

 脱衣場に向かい、服を脱いだ。

 浴室に続く引き戸を開けるとあたしはタオルを手にして閉めた。

 そうしてシャワーの蛇口をひねってシャンプーとコンディショナーを済ませた。

 体もボディーソープで洗い、濯いだ。

 一通りすっきりすると湯船に浸かる。

 お湯はミルクが入れてあり乳白色になっていた。

 タオルを浴槽の近くにあった洗面器の中に入れた。

 浴槽に張られたお湯に浸かる。

「……はあー。いい気持ち」

 あたしは息をつきながら伸びをした。

 じんわりとお湯の温もりが緊張していた体と心をほぐしてくれる。

 今日はアルさんに手を握られたしかなり接近した。

 おかげで顔から湯気が出そうになったが。

 慌てて首を横に振った。

 思い出さない方が身のためだ。

 その後、体が温もったので水気をバスタオルで拭き取り浴室を出た。

 籠に入れてあった下着類を身に付けて寝間着ーベージュの胸元にリボンがあるネグリジェを頭からスポンと着る。

 これは丈が足首まであり布地も厚手だ。

 今はカルーシェ王国も秋らしい。

 既にあたしのいた地球でいうと晩秋で冬に近いと岬さんから聞いた。

 なのでシェルミナさんが気を利かせて用意してくれたのだ。

 柔らか厚手の靴下も履いて脱衣場を出て寝室に向かう。

 布団に入りそのまま眠りについたのだった。



「……おはようございます。ミヅキ様、起きてください」

「んー。おはよう」

 あたしはシェルミナさんの声で伸びをして起き上がった。

 しゃっとナタリアさんがカーテンを開ける。エミリーさんは両手に歯ブラシや歯磨き粉、タオルを持っていた。

「ミヅキ様。とりあえずは顔を洗ってきてください。その後で巫女の正装に着替えてくださいね」

「わかった。じゃあ、顔を洗ってくるよ」

 そういうとエミリーさんが持っていた物を手渡してくれた。

 受け取りあたしは洗面所に向かった。

 まずは歯磨きをして口をゆすいだ。

 何回かすると水道の蛇口を捻って水を出す。

 このカルーシェ王国は既に上水道も下水道も完備しており浄水場もある。

 ちなみに水の浄化などは魔石で行っていると聞いた。

 冷たい水で口元についた泡を落とした。

 顔も何度か洗ってタオルで水気を拭く。

 使ったタオルと歯ブラシ、歯磨き粉を手に持って洗面所を出る。

 エミリーさんに渡してドレッサーもとい鏡台の前の椅子に腰掛けた。

 シェルミナさんがブラシを手にとり髪を梳いてくれる。

 香油も塗ってくれた。爽やかなミントの香りでこれだったら巫女でもOKだと侍女さん達が太鼓判を押している。

 それで何度も梳いた。

 髪に艶が出てくるとブラッシングは終わりお化粧水や乳液も塗った。

 巫女の正装に着替えて身支度はこれで終わる。

 お化粧ができないのが残念だと皆が言うけど。

 あたしはあんまり気にしていない。

「さ。できました。今日も頑張ってください」

「わかった。アルさんが来るまでもう少しだね」

「ええ。そろそろでしょうね」

 シェルミナさんと話していたらドアをノックする音がした。

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月の姫は白銀の悪魔祓い士と乱舞する 入江 涼子 @irie05

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