ウォーレンの受難
相有 枝緖
物持ちは良いが、経年劣化には勝てない。
物持ちが良い、というのはウォーレンの密かな自慢である。
ベッドや机といった家財はもちろん、毛布やシーツ、洋服、バッグなど、日常使いするものはかなり長持ちさせている自信がある。
節約しているわけではないが、使い捨てないものは、きちんと手入れしているのだ。
もちろん、新しいものが嫌いなわけではない。
冒険者としてよく使う短剣は、切る素材によっては手入れしていても欠けたり折れたりすることがあるし、魔法使いのローブだって毎日使えばヘタったしまうので定期的に買い換えないといけない。
そうして新しくすれば、なんとはなしに気分が上がる。
とはいえ、ただ新しくすればいいというわけでもない。
きちんと使い切って、寿命を迎えてから新しくするのが良いのだ。
物持ちの良さを自慢するときに見せるものの1つが、魔法の杖だ。
これは魔法学園に通っていた頃から使っているもので、使いすぎて木の色が飴色に変化してしまっている。
若干歪みがあるものの、それがまた手に馴染む。
それを見た人は大体が驚いてくれるので、ウォーレンは思わず自慢してしまうのだ。
しかし、経年劣化はどんなに手入れしていても襲いかかってくる。
ある日、とうとうウォーレンの杖が壊れてしまった。
「いてっ」
ぎゅっと持ったら、持ち手部分がささくれており、その棘が指に突き刺さったのだ。
魔法の杖は、持つことさえできれば使えるものである。
逆に言うと、持てなくなると使えなくなる。
もちろん補強すればごまかしながら使えるが、それはさすがに貧乏くさい。
お金がないわけではないので、買い換え一択だ。
ウォーレンは、長年連れ添った杖を棘が刺さらないよう手の中にそっと収め、初めてこの杖を手に入れたときのことを思い出していた。
『晴太、とうとう菜箸がお陀仏したのね』
キッチンに立つ晴太の目の前には、ビデオ通話中の母が写ったスマホが立ててあった。どうしても母の煮物が食べたくなって、レシピを教わりながら作っていたのだ。
目の前でくつくついう鍋からは、覚えのある香りが漂ってきている。
「うん。ささくれたとこが刺さってめっちゃ痛い」
『そりゃあ何年も使ってりゃあねぇ。しかもそれ、菜箸っていうかもとはお弁当買ったときについてきた使い捨てでしょうに』
竹でできた箸は、丈夫で使い勝手が良いのだ。
「使い切ったからこれでいいんだよ」
『あらそう。ところで、ウォーレンはディートなんとかと関係あるの?魔法学園って同じとこ?』
「っ!??ちょ、ま、いやほら、わかるだろ?一人暮らしだと独り言が癖になってさ」
『何言ってんの?子どものときからずっとじゃない。そろそろ学習して、せめて脳内再生に留めなさいよ。だから彼女が続かないのよ。次はその厨二病に付き合ってくれる子を探しなさい。あと、菜箸は魔法の杖ほど万能じゃないと思うわ。せいぜい魔法薬を作るときの魔道具ね。それに電気工事士は魔法使いっていうより魔道具師なんじゃないの?』
「もう、いいから。追い打ちしないでくれ……」
先日振られたばかりの晴太は、電気工事士として働くいい大人のはずである。しかし、またしても新たな黒歴史を素養のある母にえぐられたのであった。
ウォーレンの受難 相有 枝緖 @aiu_ewo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます