この部屋、ちょっとヘンなんです

いおにあ

第1話


 東京都の片隅にひっそりとたたずむボロアパートの一室。そこがぼくの住まいだ。


 しかしこの部屋、ちょっと普通じゃない。どういう点が異常なのかというと――。

 


 はあ・・・・・・。今日、またしてもバイトをクビになった。今年に入ってもう、7回目だ。流石に心がささくれ立ち、すさんでくる。


 ぼくは自分の部屋に入り、電灯をつける。弱々しい光に映し出される我が部屋。


「・・・・・・これだから、イヤなんだよね」


 思わず愚痴が漏れてくる。壁や木の柱が、あっちもこっちもささくれ立っている。まるでぼくの心象風景を間近に見ているようだ。


 そうなのだ。この部屋は、ぼくの心と連動しているのだ。今日みたいに心がささくれ立っていると、部家全体が物理的にもささくれ立つのだ。


 どん底で真っ暗な気持ちのときには、電気がつかずに一晩中、暗闇だったこともある。あるいは、酔っ払ってやたらと上機嫌だったときは、一晩中煌々こうこうと室内が照り輝いていたこともある。


 妙な部屋だ。でも実は、そこそこ気に入っていたりもする。

 


 それからしばらくの歳月が経った。ぼくはなんとか定職にありつき、どうにかこうにか生きている。


そして幸いなことに、こんなぼくでも受け入れてくれる人がいて、結婚することになった。


 しかし二人で暮らすにはあの部屋は些か狭すぎる。ということで、長年住み慣れたボロアパートを引き払うということになった。大丈夫だろうか。


 だが――意外にというべきか、引っ越し当日、ぼくの部屋は静かだった。いや、むしろ静かすぎるぐらいというか。


 引っ越し業者が来て、綺麗に片付けられた部屋を見ながらぼくは気付く。ああそういうことか。もうこの部屋は、ぼくの心を映し出すことはないのだ。新たな生活を送ることになったぼくに、感情を共有して、寄り添う必要は、もうない。この部屋は、そう判断したのだろう。


 ありがとう。ぼくの部屋。10年以上共に過ごした一室に礼を述べて、ぼくは新たなる住居へと向かった。

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この部屋、ちょっとヘンなんです いおにあ @hantarei

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