ある冬の日のこと
蒼雪 玲楓
不器用な贈り物
「ん、これ」
それは突然の出来事だった。
進学して少し疎遠になっていたと思っていた幼馴染みからプレゼント用の包装がされた小箱を突然差し出されたのだ。
「え、えっと……急にどうしたの?」
「あげる」
この子は昔から言葉が足りないところがある。だから、その行動から何を考えているのか推測したほうがいい。
「私の誕生日……はとっくに終わってるし……あれ?」
他に何かしら私の忘れている記念日でもあったかと記憶を辿ってみるも、心当たりが増えることはない。
「私が渡したくなったから」
「そうなの?」
「とりあえず、受け取って」
ひとまずプレゼントを受け取ってみる。その重さはサイズにあったちょうどいい重量感で、ハンカチみたいな軽いものが入っていることはなさそうだ。
「これ、今開けてもいい?」
「いいよ」
許可が降りたので包装を外し小箱の中身を確かめてみると、そこに入っていたのは可愛いデザインの器に入ったハンドクリームだった。
「ハンドクリーム?」
「困ってるって聞いたから」
「困ってる……?あっ」
何のことを言っているのか最初はすぐに浮かばなかったけど、少し思い返してみると心当たりが出てくる。
何日か前に教室で最近ささくれがひどくて困ってるという話を友達とした記憶がある。恐らく、それを聞いていたのだろう。
「でも、私たち最近あんまり話せてもなかったよ?」
「友達が困ってたから…それじゃだめ?」
そう言ってはいるものの、視線はどこか彷徨っていて足は地面をコツコツと叩いている。
これは昔よく見た、言いたいことがあるけど隠している仕草だ。
「ほんとにそれだけ?」
「……言うの恥ずかしい」
「今更恥ずかしがることなんてないでしょ?」
「じゃあ言う」
私の言葉に覚悟が決まったのか私を真っ直ぐ見て口を開く。
「最近話せなくて寂しかったから、きっかけにしたかった」
「あー、もう!可愛いこと言うんじゃない!」
気がつけば私は目の前の幼馴染へと抱きついていたのだった。
ある冬の日のこと 蒼雪 玲楓 @_Yuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます