クレープとささくれ

鷹野ツミ

クレープとささくれ

 駅前のクレープ屋で、いちゃついている男女を見た。

 男の口元に付いた生クリームを女が指で掬うと、男は女の細い腕を掴んで指に付いている生クリームを舐め取った。「ちょっとやだあ」なんて言いながらも女は頬を染めていて、見つめ合った二人は唇を重ね合った。


 二人の後ろ姿を見えなくなるまで目で追い、俺はクレープ屋で人気ナンバーワンの苺のクレープを頼んだ。店舗付近のベンチには女子高生が数名居たが、余裕で座るところはあった。

 頬張ると生クリームが溢れた。朝よりも少し伸びた髭にベッタリと付いた。拭こうと思う暇もなく、自然と女子高生の話し声に意識が持っていかれた。

「まじ寒いね」「ささくれ痛そ!」「絆創膏いる?」「クレープ食べ終わったら貼ってえ」「自分でやれよ」「この後どこいく?」

 瑞々しい声が俺の心を潤わせる。ささくれと聞いて自分の指を見ると、太い指先に皮がめくれている部分がいくつかあった。気になって引っ張ると思いのほか痛くて血も滲んだ。

「わー血出てきた!」「痛いよお」

 一瞬俺のことを言っているのかと思ったが、女子高生が絆創膏を貼っているところだったようだ。

 クレープに視線を戻し、口元に付いた生クリーム掬った。血の滲んだ指先ごとしゃぶると、聞こえてくる瑞々しい声も相まって女子高生の指をしゃぶっている気分になった。「痛いよお」「優しくやってえ」という声に、いけない妄想が膨らむ。

 ぼたっと垂れた生クリームがスラックスの股の部分に落ちると同時にスラックスが盛り上がった。

 気分を落ち着かせようと残りのクレープを全部口に突っ込んだ。量の多さと甘ったるさにえずいたが気分は落ち着いたので良しとする。

 ベンチから立ち去る女子高生の冷たい視線を浴びた。えずいたのが汚かったのだろう。申し訳ない。


 さて、俺も家に帰ろうと立ち上がり、女子高生の後を追った。同じ電車のようだった。

 満員の中、女子高生の髪の匂いが鼻をかすめる。こんな状況で我慢ができるほど紳士ではない。俺は、指に絆創膏を貼っている女子高生の腕を掴んで、その指先をしゃぶった。

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