私はあなたのささくれでもいいから

加藤やま

第1話 私はあなたのささくれでもいいから

「今自習中でしょ。おしゃべりしないで勉強してよ」

 また一つ後悔を増やしてしまった。こんなことを言いたいわけじゃないのに。私だってあの子みたいにあなたと楽しくおしゃべりができたら、こんなに可愛くないことは言わないのに。


――やべー、怒られちゃったよ。おまえのせいだからな。


 あなたが楽しそうに話しかけるのは、私じゃなくて隣にいるあの子。怒られたことでさえあなたはあの子と話すためのきっかけにしてしまう。そんな姿を見て、また私の心はモヤモヤしていく。


 いつからこんな気持ちになったのか、始まりなんて覚えてない。全然好みのタイプでもないし、今まで仲良くなってきた人とはまるで違うタイプなのに、なぜだかいつも目が離せないでいる。

 でも、こっそり盗み見ているあなたはいつも横顔で、あなたの視線の先に私はいない。あなたの目の前にいるのはいつだってあの子なの。可愛くって愛嬌があっていつもあなたと盛り上がってる。私と全く逆のタイプ。私の前では見せない笑顔や聞いたことのない甘い声をあの子はいつも独り占めしてる。

 私はそれをいつも外から眺めてるだけ。でも、心のどこかで二人のことをお似合いだと思ってしまっている。そんな自分にもモヤモヤする。


「私なんかが相手でごめんね。本当はもっと違う人と組みたかったでしょ」

 困ったように曖昧な笑顔を作るあなたを見て少しだけ気が晴れる私は、性格まで可愛くないね。でも、気が晴れる何倍も後悔してるんだよ。


 あなたを前にするといつも素っ気ない態度をとってしまう。本当はもっと素直になりたいのに。でも、素直になってもあの子には敵わないから、私はまたあなたに強く当たってしまう。痛みでも何でもいいからあなたの心に残りたくて。

 振り向いてほしいとか私を見てほしいとか言わない。ただ、あなたのささくれ程度でもいいから私のことを気にしてほしい。


 ささくれ立った心で、私はまたあなたを傷つけようと口を開こうとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私はあなたのささくれでもいいから 加藤やま @katouyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ