ささくれの対処法

ちかえ

「このささくれをなんとかしなくちゃ」

「あ、こんな所にささくれ出来てるじゃん。やだー」


 食堂で、一人の女子生徒が不満そうな声でそんな事を言っている。でも、嫌だ、と言いたいのはこちらの方である。

 彼女に言われなくてもささくれが出来ているのは誰が見ても分かることである。


「ささくれって親不孝の象徴とかいうよね」


 勝手な事を、と苦笑してしまう。ささくれは、親不孝とは関係ない。


「で、どうすんのこれ、困るじゃん」


 女生徒は文句たらたらにそんな事を言う。どうすんの、なんて言っているが、私にはどうしようもない。

 私だってこのささくれをどうにかしたいのだ。


「もう根元からざっくりと切っちゃえばいいんじゃない?」


 そんな事を言われるが、それは私も困る。


「何? ささくれがあるの?」


 彼女の同級生が側に寄ってきた。


「うん、ここに」


 そう言って女子生徒は友達にささくれを見せる。


「私が魔術でぱぱっとなおしてあげようか?」


 そう提案しているが、私は不安だ。前に彼女はここで友達に魔術の授業で失敗し、小爆発を起こしたと言っていた。

 こんなに人のたくさんいる所で彼女が魔術を使うのは何かがありそうで怖い。


 でも私にはそう訴える事は出来ない。私には口がないのだ。


 それにしてもこの問題について話しているのが初等部の生徒だというのがまた不安を煽る。

 せめて、もう少しして高等部の学生達が来てくれないだろうか、と思ってしまう。そうすれば、もっとマシな解決法が見つかるはずだ。


「とりあえず、学園の事務員の方に相談してみませんこと? 勝手な事をしては怒られてしまうのでは?」


 一人のおっとりした生徒がそう提案する。周りもそれがいいという空気になっていく。当然だ。子供より大人が解決したほうがいい。


 数人の生徒が大人がいる部屋に向かっていく。残りの生徒は私の側の椅子に座る。


 とりあえず私の一部が折られたり爆発したりする事はなさそうだ。テーブルの端っこに出来たささくれを撫でる生徒を見ながら私は安心したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれの対処法 ちかえ @ChikaeK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ