【KAC20244】懐古のささくれ

あばら🦴

懐古のささくれ

「痛っ!」


 シンクで皿を洗っている時、指先に激痛が走った。見ると人差し指にささくれが出来ている。

 僕はまたか……とため息をついた。

 そういえば小学生に入りたての頃は、ささくれが妙に怖かったっけな。

 皿洗いを再開しながら昔を思い出す。


 生まれて初めてささくれがあることに気づいたのは、部屋で絵本を読んでいる時だった気がする。指がムズ痒くて見てみたら少し裂けていた。


(なんだろうこれ……?)


 と触ってみたら痛かったから僕はすぐに触るのを辞めた。

 ささくれなんていう言葉自体も知らなかった僕は興味を惹かれ、そして観察して考えるほど無性に怖くなった。


(もしかして、これ、ずっと引っ張ってくと僕の皮が全部剥がれちゃうのかな? 僕の皮が無くなって全身から血が出ちゃうのかな? こ、怖い!)


 当時の僕にとっての指は指として丸みを帯びているのが当然だと思っていた。その形が絶対であると。しかしささくれは指だけでなくその常識にも裂け目を入れた。

 僕は怖いながらも、痒みとヒリヒリさが気になってささくれをいじってみたりした。だがそれも怖くなって手を引っ込めた。


(もしかして、これ、珍しい病気なんじゃない? だって普通ありえないもん。何もしてないのに指がこうなるなんて! もしめずらしい病気だったらどうしよう! テレビに出たりして、有名人になるのかな?)


 そう思うとなんだか気分が盛り上がった。

 しかしやはり怖かった。


(でもめずらしい病気って言われて、それですぐ死んじゃうって言われたらどうしよう! 死なないよね? でも友達のみんなと会えなくなっちゃうのな? どうしようぅ……!)


 ここで怖さが限界になった僕はお母さんに聞きに行ったんだ。緊張しつつもじもじしながら話しかけたものだからお母さんも顔が強ばって、その後で指を出して「これ、病気なのかな?」と神妙に言いながらささくれを見せたものだから、お母さんは大笑いしてたなぁ。


 懐かしい。


(たまには実家に帰ろうかな)


 僕はふとそう考えた。


「痛っ!」


 考えた時、またささくれが痛んだ。

 ささくれはやっぱり怖いやつだな。それは変わらない。

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