なんの変哲もない日常に帰るとき。

ヨリトは稽古中に監督から何度も同じシーンでダメ出しをもらう。
どうしてもこのシーンを演じるのに足りないものはなんなのか演出家に尋ねると、
「ささくれができた時のあの気分。剥こうとする時ちょっと痛いよね。一瞬の痛みってやつ。取れたあともしみるしね」と言われる。その言葉がヒントになった。
自宅に帰ったあと台本を読み直してから二日目の朝、ヨリトの指先にささくれができる。
無理に取ろうとすると痛い。そういえばここんところ一杯のカップ麺ばかりを食べていて野菜不足だったかもしれない。
そんなことを考えながら稽古場に着く。
監督に挨拶をする。あの例のシーンの心情が今度はわかった気がすると彼に話す。
高校生の頃に振られた気持ちと繋がった。一瞬の痛み、ささくれができるような気持ちとは……。

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